桶狭間で信長に討たれた父義元亡き後の今川家存続に奔走した戦国一の愚将と呼ばれた彼は果たして本当に愚将だったのか「氏真、寂たり」

秋山香乃

こんにちは。

9月に入り、急に涼しくなりまして、日によっては寒いくらいの気温になっています。
オリンピックもパラリンピックも終わりまして、管理人の好きなサッカーも、Jリーグが再開し、代表もW杯の最終予選が始まって、名実ともに東京オリンピック2020祭りは終わってしまったなぁと思ってます。

10年くらい前に当時のIOC会長のジャック・ロゲさんが「トキョ」と言った時の大歓喜が忘れられないんですが、まさか、こういう形での開催になるとは思っていませんでした。
そして、そのジャック・ロゲさんですが、2021年8月29日に亡くなられたそうで、東京オリンピックの終了とともにその生涯を閉じられたというのは、なにか運命的なものを感じますねぇ。
選んでいただきありがとうございました。
ご冥福をお祈りします。

そして、引き続きコロナです。

9月6日から9月12日に延長された緊急事態宣言が、さらに9月30日まで延期となりました。
まあ、今の感染者数の増加の仕方をみたら、それはそうなるのかなぁ、という感じ。
もうここまでくると、当初のような延期のインパクトは薄れていて「ですよねぇ」みたいな空気が日本中に漂っていると思うのは、管理人だけではないはず。
ワクチン接種が2回打てたので、もうそろそろ外で飲んだりできるのかなぁと思っていましたが、なんだかそれも難しそうですねぇ。
個人的には、とにかく自己中心的な考え方を捨てて、できる限りの協力をして、事態が収束に向かえばなぁと思う次第です。

さて、そんなコロナ禍継続のなか、一冊読了しました。

今回は、一年くらい前に読んだ、管理人の故郷である越後の幕末の英傑 河井継之助の活躍を描いた作品「龍が哭く 河井継之助」の作者 秋山香乃先生 の作品「氏真、寂たり」です。
氏真と書いて「うじざね」です。

感想ですが、めちゃくちゃ面白かった!

読むのが遅い管理人が、前回の投稿からそんなに時間が経たずに読了しているのが、それを表してますねぇ。
非常に面白かったです。

いやぁ、ここへ来ての、今川氏真です。
とはいえ、管理人、本作を読むまで一切知見がありませんでした。
では、なぜ、いきなり今川氏真か。
あるんですよ、理由が。

理由は二つあります。

一つは、まず、管理人が「今川家」についての知見が全然なかったこと。
あの時代の映像作品とか、書籍とかには、必ず出てくるじゃないですか、今川義元。
NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」では、春風亭昇太さんがくっそヘタレな義元を演じ、昨年の「麒麟がくる」では、片岡愛之助さんが演じてました。
「海道一の弓取り」ですよ。
でも、管理人、全然、知見がないんです。
人数的には圧倒的有利と言われた桶狭間で織田信長に討たれて、その後、今川家は滅びた、くらい思ってました。(武田家と同じような感じかなぁ、くらい)
ただ、とはいえ「海道一の弓取り」と言われたほどの今川義元については、もう少し知見を得ておきたいなぁと、以前から思ってたというのが、理由の一つ。

そして、もう一つが、管理人の自宅近くにですね、観泉寺(かんせんじ)というお寺がありまして、実はこのお寺 今川家の菩提寺なんです。
この投稿のアイキャッチに使っている画像も、その観泉寺の写真です。
その観泉寺があるのが、東京都杉並区今川というところでして(正確には今川二丁目)、かつてその今川について「この今川ってあの今川と関係あるのかなぁ?ないよねぇ?」と思い調べたことがあり、そしたら、めっちゃ関係あるどころか、菩提寺だし、滅んだと思っていた今川家は滅んでないし、「どうしてここに今川?」となりまして、「これはちょっと今川家について勉強しないとなぁ」ということを数年前から思っておりました。
敷地内には「観泉寺幼稚園」がありまして、うちの子はそこの卒園生ではないのですが、友人の子供に多数卒園生がおりますので、そう遠くない気がしなくもなく。

なぜ、駿河とか遠江(とうとうみ)という静岡あたりにあった今川家の菩提寺が、東京都の杉並区にあるんだ?という話ですが、そのあたりについては、本作でもまあまあわかります。
まあまあ、というのは、実際に今川家が、杉並区今川のあたりを知行地とされるのは、氏真の孫にあたる今川直房(なおふさ)の代らしいのですが、とはいえ、氏真の晩年にその未来が垣間見えるんですよねぇ。
本作を読んで経緯が非常にわかりました。

余談ですが、その杉並区今川の近くに「八丁」という場所がありまして(八丁は今川ではなくて今川の隣の桃井というところになります。環八と青梅街道が交差する、ラジオの渋滞情報でおなじみの四面道交差点の近く、青梅街道沿いです。)、その「八丁」、もとは「八町」だったらしく、それは、当時の今川家のお屋敷がそのあたりにあって八町分の広さを誇ったのだとか。
そのあたりの地理に詳しい方はイメージがつくかもしれないですが、縦は青梅街道から早稲田通りまでくらいということらしいので、地元民の管理人としては「どんだけでかいの!?」ということで、ますます親近感がわくじゃないですか。

ということで、「今川家の作品を読んでみるか」と思っていたところ、本作にたどりつくんですが、最初は「氏真」が読めず「これ今川?北条じゃね?」くらい思っていたものの、著者が秋山香乃先生じゃないですか。
読む気ががぜん上がりまして、よく見てみると「今川氏真」であることが判明、「今川義元の息子!?全然わからないからいいねぇ。」ということで「購入」をポチリ。

ちなみに、レコメンドで「義元、遼たり」というのも出てきまして「お、これも秋山香乃先生の作品か?」と思ったら違っていたんですけども、調べてみたら著者の鈴木英治先生が秋山香乃先生の旦那さんということで、続けざまに「購入」をポチリとしてました。
なので、そう遠くない未来に「義元、遼たり」も読みます。

さて、前置きが長すぎですが、そもそも、このブログ「ネタバレしないように」がモットーですのでそこはご勘弁。
少し、内容についてお話しします。

始まりは氏真が12歳くらいからで、最後は生涯を閉じるところまでなんですが、フォーカスされるのは、家康の天下統一までで、且つ、さらにフォーカスされるのは、本能寺の変くらいまで、かなぁ。
本能寺の変以降は、結構、速足に感じました。

本作を読んで「そういえばそうだったな」と思ったのが、徳川家康って幼少の頃、今川家で人質になっていて、17歳くらいの桶狭間の戦いまで、ほとんど今川家で育ってんですよね。
なので、つまり、本作の主人公 氏真とも、相当、関わりがある、というか、もう、幼馴染以上の兄弟くらいじゃね?という感じ。

前半は、そのあたりの話がメインになってまして、そんな中、桶狭間の戦いが起こってアレですよ。
そこで、松平元康(のちの徳川家康)は、それまでの恩を踏みにじるかのような所業。
人質と言っても、衣食住は十分に与えられたし、ほぼ、実子の氏真と変わらずに暮らしてきたはず。
それがアレでは、そりゃ、氏真、ブチ切れますわ。

そこからの氏真がもう大変。
元々、食わせ者感満載な武田信玄もいるし、仲良しかと思いきや怒ってしまう北条氏政はいるし(怒ってしまう気持ちはわからなくもないが、それはちと違うんではないか感)、裏切り野郎の松平元康はその後ろに織田信長を控えさせちゃうし。
どんどん、所領は小さくなって、最終的には…。という感じ。
もう、ホント、気の毒で仕方がない。

ただね、氏真がダメかというと、決してそんなことはないと思うんですよねぇ。
家康と一緒に学問を学んだんだと思うので、そのあたりの知識はきちんとあるのだろうし、晩年を見ると、知性的な部分は、人並み以上どころか相当なレベルだったと思うし、武芸に関しても、相当だった様子。
んじゃあ、なんで、衰退していったかというと、周りがそれ以上にくせ者過ぎたんじゃないかと。
あの時代、東海道って地獄かよ、と思いました。
まあ、他もそうなんでしょうけど、本作を読んで、当時の東海道の情勢が非常にわかりまして、これはたまんないなぁと。

傷心(ハートブレイク)氏真ですが、なんとか生きながらえ、そうこうしているうちに、本能寺の変がおこって、そこからまた時代が一挙に動いていく、という感じ。
その頃の氏真は、当初の姿とは違ったものになっていくのですが、実はこの時点は氏真の人生の半分くらいなので、氏真の人生って、後半はわりと穏やかで、前半の青年期から中年期くらいが濃厚すぎなんじゃ。
本作は、その濃厚な時期がわりとフォーカスされてるかなと思います。そりゃそうだ。

泣きポイントの一つは、夕(築山殿)のアレだなぁ。
夕というのは、家康の正室、築山殿ですね。
NHK大河「おんな城主 直虎」で菜々緒さんが演じた築山殿ですよぉ。ええ…。
これまでいろんな作品で見てきてますけども、やっぱりこれはいただけない。
管理人の「家康嫌いポイント」の一つ。
夕は、今川の人間ですから、当然、氏真との関わりがあったわけで、本作でも、家康のもとに行こうとする夕を氏真が止める場面がありまして、その後のことを知っている管理人としては「氏真、とめろ、とめろ」と念じましたけど、通じるわけがなく…。
しっかり、氏真、ブチ切れてくれます。(二回目)

もう一つは、もう作品全体に流れる氏真の奥さん志寿(しじゅ)の健気さ。
早川殿(はやかわどの)というほうが一般的なようです。
もう、めちゃくちゃかわいい。
そこかしこで、夫の氏真を慕う様子が描かれるんですが、とにかく健気。
「私にはできた嫁」ですよ、氏真。
最初に会った時の「あまり好きになれそうにないな」はマジで勘弁。
全編を通じて、ホントに泣かせてもらいました。
機会があったら、お墓をお参りします。

あとは、寿桂尼(じゅけいに)が最期に氏真に言葉をかけるシーン。
泣いた。
寿桂尼は今川氏親(うじちか)、つまり、義元の父なので、氏真のおじいちゃん、の正室。
つまり、氏真にとってはおばあちゃん。
女性ですが、ものすごく権勢があったとされるその人が、最期に氏真に言葉をかけるシーンも泣きました。
あれで、氏真も救われたと思うんですよねぇ。
あの時代を気丈に生きた、女帝ともいえるような人に氏真が評価される最期のシーンは、その場面を読み直しただけでも泣けちゃう。

ということで、印象に残ったシーンをあげましたが、なんだなんだ、女性ばかりじゃないか。
でも、そうなるかもしれないんですよ。
なんといっても、著者が秋山香乃先生なので。
女性の心情とかを絡めるのが上手い!

以前読んだ「龍が哭く 河井継之助」のレビューでも書いた気がしますが、奥さんや母親といった女性の機微の盛り込まれ方が、管理人的には非常によろしくて、管理人はそういう感じも好きなのですなぁ。
ハードボイルドなものも、それはそれでいいんですが、こちらはこちらでとてもよい。
本作も、もちろん、戦国の世を示した厳しい部分もありながら、そういった温かい部分もあり、管理人的には非常に前のめりで読むことができました。

しかし、氏真の評価が「戦国一の愚将」ねぇ。
まあ、父である今川義元が討たれた後、最終的にそれまでの今川家の大名としての地位を無くしてしまったことにはなるんでしょうけれども、どうかなぁ、氏真一家のことや、晩年の取り上げられ方を見るに、氏真が選択していったことというのは「失敗」とは思えず、むしろ「成功」だったんじゃないか、とも思えます。
ネタバレになるので、これ以上は言いませんが。

そう呼ばれるようになったのが、信玄らが広めた風聞や、上洛した際の信長とのやりとりを以て、だとしたら違うと思うし、本作で描かれる上洛時の信長とのやりとりなんかは爽快で「氏真すごいじゃん」って思いましたねぇ。
信長とのやりとりのシーンは、ものすごい緊張感でくっそ面白いです。
現在、本当に「戦国一の愚将」と評されているのであれば、本作でもって、見直してあげられないものか、と思えました。

そうそう、本作のタイトル「氏真、寂たり」は、氏真が「寂ってる」ではないです。
「寂ってる」ってなんだよという感じですが、なんとなく感じる「おとなしい」ということはなく、むしろ「猛って」まして、あれだな「寂たりたい」って感じです。
「天下静謐」です。これキーワード。
ほんと、名君になりえたかもしれないなぁ、と本作を読む限りは思いました。

その他のエピソードとしては、管理人、本作で始めて知ったんですが、今川家の「天下一苗字」のエピソード(氏真の数代前の先祖の時なんですけどね、今川という苗字は、この世に一家だけと公に宣言してもらったらしいんです)は面白かった。
私、仕事場に「今川さん」がおりまして(それはそれである意味すごい)、今度、それを問うてみたいと思ってます。

あとは、松平元康(のちの家康)に付き従った鷹匠「弥八郎」が、のちのあの人だったのはなぁ、驚きました。
本作の前に読了した「小説 徳川秀忠」で、めっちゃ登場してたので、最後の最後で弥八郎がその人だったとわかった時には「おお!?」と声がでたと同時に、「ああ、そうなのかぁ」と妙に納得もできました。

あ、以前読んだ「曽呂利 秀吉を手玉にとった男」で主人公だった豊臣秀吉の御伽衆 曽呂利新左衛門も後半出てきて、氏真と絡みますので、これもこれで面白かったです。

ということで、今回もまた愚にもつかないレビューとなりましたが、桶狭間の戦いで今川義元が討たれて以降の今川家の顛末、今川家を継いだ今川氏真とその家族の波乱万丈の物語、是非読んでみてください。
めちゃくちゃ面白いです。

NHK大河ドラマいけると思うんだけどなぁ。
こんなに波乱万丈な人もなかなかいないのではないか?
それでいて、長生きできてるし。
後半にドラマがないのかなぁ、でも、「天下静謐」だからなぁ。
案外いけると思いますけども、どうでしょう、NHKさん。期待してます。

歴史には浪漫がある。

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