空論(うつろ)屋と呼ばれた江口正吉の有能さに感心するも、仕えた丹羽家が封建制に翻弄される様になんだかやるせない気持ちになる「うつろ屋軍師」

蓑輪諒

今回は、既にレビュー済みの「最低の軍師」で2018年の第12回 啓文堂大賞 時代小説文庫大賞をとった箕輪 諒さんのデビュー作「うつろ屋軍師」です(箕輪さんは軍師好きだな)。
この作品も、賞をとってたり、候補になってたりして、世間の評価は高いみたいなんですが、それ以上に、前回読んだ「最低の軍師」が面白かったので、気になってて読みました。

期待に違わず面白かったんですが、んー、もっとボリュームを持たせて、楽しみを持続させてもらってもいいのかなぁって、ちょっと思います。まあ、それだけ面白かったってことです。

なにしろ、本能寺の変から大阪の陣までが舞台なので、イベントがてんこ盛りなんですよね。
しかも、主人公の江口正吉(えぐち まさよし)は、あの丹羽家に仕えた人物なので、丹羽家の浮沈を描きつつ、各イベントにもめちゃくちゃ絡むのに、450ページの文庫本一冊で完結ですから、まあテンポが速い速い。
この前に読んだ山田風太郎の「柳生忍法帖」なんて、文庫本上下巻に分けて、物語の期間は一年ですからね。比較の仕方が間違ってるって言われたら、まあその通りなんですけど。

とにかく、この作品、文庫本一冊で完結するのと、話がテンポよく進むので、時代小説・歴史小説のとっかかりとしてもよいかもしれません。
戦国時代のメインイベントも全て網羅されていて、あの丹羽家が中心になって話が進むので、大名間の関係性や封建制度のことなど、非常に勉強になる気がします。少なくとも管理人はなりました。

さて、内容について少し触れましょう。

主人公は、丹羽家に仕える江口正吉という人物なんですが、この方、皆に空論(うつろ)屋と呼ばれてまして、管理人は最初なんとなく「空想癖が凄い人かな?」なんて思ってたんですが違いました。「実現性の可否を無視して突拍子もないことを考える人」ですかね。

ただ、その「突拍子もないこと」が、実は妙案だったり、妙案に繋がったりするから、普通の人たちには、うつろ屋なんて言われるものの、凄い人たちには一目置かれるわけなんです。

さらに、これもなんとなくですが、管理人、勝手に「軍師ってくらいだから、諸葛亮孔明みたいな感じで、戦場で刀振るったりはしないんだろな」と思ってしまってたんですが、これも違ってて、刀振るいまくります。もう、作品の開始早々します。しかも強い。なので、その時点では「主人公の軍師って江口正吉じゃないよね?この後でまた違うのが出てくるんだよね?」と思っていた次第。
あれですね、諸葛亮孔明でなく、関羽雲長ですかね、関羽雲長にある先生感はないんですが(このあたりは完全に管理人の勝手なイメージ)、まあ普通にとても優秀な人物なわけです。

そして、この江口正吉が仕える君主が、あの丹羽氏です。最初の君主は、あの丹羽長秀(にわながひで)です。
丹羽長秀といえば、織田信長にして「米のように欠かせない男、米五郎左(こめごろうざ)」と言われ、柴田勝家、明智光秀、滝川一益とともに織田信長の四天王の一角に数えられ、柴田勝家に次ぐ二番家老って、もうあの時代のメインストリームをいく人ですから、メインイベントには必ず関わるし、なんなら、イベントのメインキャストの一人だったりするので、ほんと、この作品はその点でも面白い。

管理人は、丹羽長秀の名前や織田信長に近しい人物であることは知ってましたが、四天王であることや、本能寺の変後の浮沈など詳しいことまでは知らず、本作で勉強させてもらったんですが、なんていうか、丹羽長秀、めっちゃ素晴らしい君主じゃないですか。
しかも123万石って、大大名もいいとこ。凄すぎ。
そうかぁ、越後と大阪の間には、この丹羽長秀がいたのね。息子の長重もなかなかよくて「なんだ、ここにも、こんな素敵武将がいたんだなぁ」と新しい発見。

逆に秀吉なんかは、これまでは「最期は孤独で、死んだらすぐに豊臣家滅ぼされるとか、なんだか可哀想だなぁ」なんて思ってたんですが、本作を読んだ後は、「因果応報、仕方ないんじゃね?」って思うくらいイメージダウンしましたね、まあ、管理人単純なので、本読むたびにイメージ変えるとこありますが。

まあ、とにかく、本作では丹羽長秀・長重親子がよい感じなので、今後は注目していこうかなと思ってます。

で、主人公の江口正吉に話を戻すと、彼、ほんと凄くて、「ともすると直江兼続と張れたんじゃね?」という感じで、マイナーであることが不思議なくらいなんですが(管理人が知らないだけかも!?案外有名だったらごめんなさい)、有名になるかどうかは、仕えた家次第なところもあるんだろうなぁと思うと、その後の丹羽家を見てると納得できるところがあるんですが、ネタバレにも繋がるので、これ以上は控えます。歴史に詳しい方はもちろんご存知でしょうけど。

彼の空論(うつろ)屋ぶりはというと、うーん、どうですかね、発想が突拍子ないっちゃないんですが、結局、その空論が軍略、政略に活きてしまうから、「うつろ」ってなんか字面的にマイナスイメージありますが、そんなことなくて、そりゃ一目置かれるようにはなるよねって感じで、やればできる子です、正吉は。

しかし、箕輪諒さんて、「最低の軍師」の白井浄三しかり、本作の江口正吉しかり、実在したのに微妙に知られてない有能な人物を使うのが本当に上手いなぁ。
本作も実在した人物や、史実に基づいて話は進むんですが、正吉が関わる人物が、まあ凄い方達ばかりで、創作の部分も多々あるのでしょうけど、有名なあの人やこの人との邂逅が楽しく、その点も正吉の有能ぶりを印象づけると同時に、本作を面白くしてくれてるのだと思います。

というわけで、また愚にもつかないレビューを長々としましたが、冒頭でお伝えした通り、本作は文庫本一冊で、ライトな感じに読めるわりに、日本史的に有名なイベントが網羅されていつつ、それらの事情なんかも把握できて楽しいので、歴史小説・時代小説の入口とかにも非常によいんじゃないですかね。もちろん、そうじゃない方にも楽しめますが。

エロは一切ないので、小さなお子さんにも安心しておすすめできます。

最後に、「最低の軍師」の時も言った気がしますが、この作品も尺的には映画にできるんじゃないですかねぇ。
映像的に見栄えのするイベントにもたくさん関わるし、結構、面白いエンタメ作品にできるんじゃないかと思います。
あれですね、箕輪諒さんの作品は2つ読みましたが、タイプとしては、司馬遼太郎先生の重厚な感じとか、山田風太郎の妖艶怪奇な感じとは違って、「のぼうの城」「村上海賊の娘」の和田竜さんに近い感じなので、わりと万人受けするんじないかと思うんですがどうですかね?
クライマックスがどうかなぁ、その点では本作よりも「最低の軍師」のほうに軍配が挙がるかなぁ、とか勝手に評価して勝手な空論(うつろ)を妄想してしまいますが、もしかしたら実現するかもしれないその時を待つことにします。

というわけで、実在した人物と史実を使って、堅苦しくなく、カジュアルな気持ちで読める作品として本作はオススメです。楽しいですよ。是非読んでみてください。

歴史には浪漫がある。

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