今回は、2015年の第2回高校生直木賞受賞作品の「宇喜多の捨て嫁」(木下昌輝)です。
先に「高校生直木賞ってなんぞ?」を簡単に解説しますと、2014年に第1回が実施されて、今年2019年で6回目を数える賞だそうで、高校生の読書離れを食い止めるべく、フランスの権威ある文学賞「ゴンクール賞」の高校生版「高校生ゴンクール賞」を真似て、日本の高校生達に直木賞の候補作を読んで高校生なりの選考をしてもらうことで文学に触れてもらおう、ってことで設けられた賞だそうです。
はいそこ!「読書は、する子はするし、しない子はしないんじゃね?」とか言わない。
そういう機会を設けることで少しでも本を読むことに興味を持ってくれる子が出てくればいいじゃないですか、管理人はそう思ってますよ、ええ。
しかも、第1回は文藝春秋主催で実施されたものの、第2回以降は、きちんと「高校生直木賞実行委員会」が編成されて、後援も最初は文藝春秋だけだったものが、第5回以降、文部科学省も参加になったので、今後、権威ある賞になってく可能性あるかなと思ってます。
参加校も年々増えていっているし。
ということで「高校生直木賞」が「高校生が書いたすごい作品」ではなくて「高校生が選んだすごい作品」であることを説明したところで、今回の「宇喜多の捨て嫁」です。
前回の投稿からそんなに時間が経っていないのに、この作品のレビューになったということはアレですね、そうですね「めちゃくちゃ面白かった」です。
これまで宇喜多家については、管理人「中国地方方面の大名で、関ヶ原の時は西軍にいたよね」くらいしか知りませんでしたが、本作でちょっと知見を得られてよかったです。管理人の中では、今、中国地方の大名の中で最も情報のある大名になりました。
さて本作ですが、まず、話は宇喜多直家(うきたなおいえ)が中心にはなりますが、主人公かと言われるとそうでもなくて、ネタバレというか、本作の作り方の話なんですが、全部で6章に分かれていて、それぞれ6人(読むとわかるのですが正確には5人)の視点からの話になったオムニバス形式の作品になってます。なので、各章毎にそれぞれ主観が違っていて、主人公はそれぞれの章毎に違う感じ。
ただ、話のキーは必ず宇喜多直家です。
で、言えば、タイトルの「宇喜多の捨て嫁」は、全6章のうちの第1章がそれなので、全体的には嫁中心の話かというと、そうでもなくて、宇喜多家全般の話です。
管理人は、そのオムニバス形式の作品であるというのを知らずに読み始めたので、第2章が始まった時に不思議な感じがしつつ、第3章になって「あれ?オムニバス形式?」って気づきました。そこから、俄然、先が読みたくなりましたね。
歴史・時代小説では初めてかなぁ、オムニバス形式の作品は。
古くなりますが、映画では、ちびっ子だった管理人が「工藤夕貴が脱ぐらしい」というよこしまな理由で見た「ミステリートレイン」(1989年アメリカ/ジム・ジャームッシュ監督)で初めてオムニバス形式作品に触れ「面白れぇ、これ」となって、同じ時期に小説で、氷室冴子さんの「多恵子ガール」「なぎさボーイ」という作品で同じような感じを味わって以降、あんまりその手の作品に遭遇してない気がするんですが(記憶に残っていないだけかもしれない)、点と点が線になっていく感じとか、なかなかいいですよねぇ。
「宇喜多の捨て嫁」は、まさにそれで、もうほんといろんなものが繋がっていく度に「あぁぁぁぁ…」ってなります。
さて、ネタバレにならない程度に内容について。
基本的には、宇喜多直家がベースなので、時代は1500年代になりまして、ちょうど、織田信長の時代とまるまる被るはず。ああ、織田信長が1534年生まれで、宇喜多直家が1529年生まれですから、宇喜多直家は織田信長の5個上ってことになりますね。
場所は備前(びぜん)、美作(みまさか)、備中(びっちゅう)あたりが中心になるので、今の岡山県あたりがそれになります。
東には織田信長がいて、西には毛利(もうり)、吉川(きっかわ)、小早川(こばやかわ)なんかがいるにも関わらず、備前、美作、備中あたりも混沌としていて、もう気が抜けないことが容易に想像できます。
管理人、冒頭でも話した通り中国地方の戦国時代の事情はまだまだ勉強できておらずでして、本作にて、地理的なものも含めてちょっと事情を知ることができたのですが、中国地方もなかなかに謀略系の動きが凄いですね。ってかエグいです。
その筆頭になるんだろうと思うのが、本作の中心人物「宇喜多直家」さん。
この投稿のタイトルにもある通り、裏切り・裏切らせが凄い人として有名なんですね。
歴史好きの方はご存知の通り、もう、宇喜多家の人たちが気の毒なのと、宇喜多に関わった人たちも気の毒だし、もう、なにもかもが辛くて、なんか読んでて切なくなります。
「国盗り物語」を読んだことで「齋藤道三って悪人か?」となったのと同じように、この作品も「宇喜多直家って悪人か?」となるかと言われると、さてどうでしょう?(笑)
そこは読んで確認してもらいたいんですが、宇喜多直家が梟雄(きょうゆう)とまで呼ばれるくらいに酷い仕業を繰り返したのには、やはり理由があったわけで、管理人は「宇喜多直家も気の毒」とは思いました。
この作品って、どこがノンフィクションの部分なんだろうなぁ。
細かい描写は別として、幼少の頃から逝去するまでの出来事のおおよそがあの通りだとすると、かなり壮絶で、辛い人生過ぎるなと思います。
なので、本作では、フォーカスする時期に濃淡はあれど、宇喜多直家の幼少から逝去までが描かれます。
歴史好きの方はご存知でしょうし、タイトルの「捨て嫁」も相まって、もう作品が暗くなりそうな気配満載かと思うのですが、本当に暗いです。
とはいえ、作品全体の雰囲気は「高校生が選んだ作品なのでカジュアルなんじゃね?」って思ったら大間違いです。
難しめの作品を好む方にするとカジュアルな感じになるのかもしれないですが、和田竜さんとか、箕輪諒さん、近衛龍春さんらの作品と比べたら、本作のほうがカジュアル感はないのと、何度も言ってますが、暗いです。この作品。
もう本の表紙?カバーの絵?が禍々(まがまが)しいじゃないですか。髑髏(どくろ)とか書かれてて。もう本当にそれ。作品全般に流れる雰囲気が。そして、描写が。
作品内で何人も死んでいく様子が描かれますが、死んでいく人の事切れるその刹那の瞬間をこうもしっかり書いてる作品は他に見たことないし。
この作品を大賞にするとは、イマドキの高校生は趣味が悪いなぁ。褒めてます。
実際、高校生達が大賞を決める協議をした際のやりとりみたいなものが巻末に付録的にあるんですが、そこで「描写がエグくて読み進められない人もいるかも」的に言ってたようなんですが、それわかるわぁってなるくらい、もう酷いです。暗いです。この作品。褒めてます。
あー、でも、小学生、中学生には薦められないかと言われたらそんなことないです。
まあ、小学生でこの作品に興味を持って読んでくれる子がどれだけいるかわからないですが、中学生は全然いけると思います。
なんていうんですかね「面白い」というのはちょっと正しくないのかもしれない。
読んでいて息が詰まるというか、息を飲むというか、呼吸を忘れてしまう、みたいな。驚愕とか戦慄とか壮絶とかそんな気持ちがずっとある感じで、もう読んでて辛いんだけど、先を読まずにいられないというか、なんかもうそんな感じ。
それを繰り返していたら、あっという間に読み終えた、みたいな。
読了後の満足感は非常に高いです。
爽快感はありません。まあ「暗い」「暗い」言ってますから当然ですが。
むしろ、読み終えてしまった喪失感みたいなものがあるかもです。それくらいよかった。
あ、言い忘れてました。
この作品、戦(いくさ)のシーンはほとんどありません。全くないかもしれない。
なので、それを期待する方は読まないほうがいいかもしれませんが、違う発見があるかもしれないので読んでみることをおススメします。
それなのに、壮絶とか凄惨とか悲哀とかそんな単語しか浮かばないってどういうんですかね。
まあ、読んでもらうとわかると思います。
というわけで、このレビューを読んで読みたい気持ちが果たし生まれるか?とちょっと思ったりしてますが、なんというか、史実に基づいて、あの時代の不条理な世の中を描きつつ、人間の業みたいなものを考えさせられる、なんかもうとても息が詰まるけど、読み応え度は満点な作品です。
歴史好きは必読の作品じゃないでしょうか。
選考した高校生達で「これを機会に歴史小説を読んでみたくなった」という子も出たようですよ。是非読んでみてください。おススメです。
歴史には浪漫がある。
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