豊臣秀吉の腹心の蜂須賀小六の息子の家政が普通に武士として凄いしあの有名な踊りまで生み出させてるのにいまいち有名でないのが謎な「殿さま狸」

蓑輪諒

相変わらず毎日帰宅が日を跨いでしまう忙しさで、日々これどうにかならんかなと思いながら、打開策を模索し続けている管理人です。今月は大きめのローンチが二つ控えてるので、それぞれ仕上げをしっかりやらねばです。

さて、そんな中、今回読了したのは、2015年に発表された箕輪諒さんの作品「殿さま狸」です。箕輪諒さん作品の読了は「最低の軍師」「うつろ屋軍師」に次いで三作目ですね。今回は軍師でなくて殿さまでした。

しかしまあ、相変わらず、箕輪諒さんはニッチな人物を取り上げて面白い作品を作り上げてくれます。「最低の軍師」では白井浄三入道(白井胤治)なんて伝説化してる軍師を扱い、「うつろ屋軍師」では江口正吉って、話を聞けば非常に優秀なんだけど、そうでなければ「誰?」って感じの武将だし、そんな中、今回は彼らよりは有名そうですが、管理人は知らなかった蜂須賀家政(はちすかいえまさ)。豊臣秀吉の腹心で和田竜著「村上海賊の娘」でとりあげられた天王寺の戦いや、中国攻めで活躍した蜂須賀小六(はちすかころく)の息子さんです。

管理人、蜂須賀小六の名前は聞き覚えがありましたが、あまり知見がなく、家政に関しては全く知らなかったんですが、いやはや父に劣らず相当たいした人物で驚きました。十分ドラマにできる人物だと思うんですが、あまり取り上げられないのはなんなんですかね。まあ、管理人が知らなかっただけで、実は取り上げられてるのかも知れないですが。

本作では偉大な父に反発しながらも豊臣秀吉を支えていく若い時代から晩年までが描かれるのですが、その立ち位置は常に豊臣・徳川政権の中心側にあり、父子で凄かったことが伺えます。

父の蜂須賀小六の凄さに嫉妬していたのか、若い頃の家政はずいぶんと小六に対して挑戦的な態度をとったりしますが、それは、逆に父の凄さを認めているということで、徐々に父への反発が融解していくのと、父である小六がそれをにこやかに見守り続けるというあたりは、なかなかよき父子の姿であると思います。

とはいえ家政は、父である蜂須賀小六が秀吉から全幅の信頼を得ていたことと、家政自身も優秀だったため、あの時代のイベントにはほとんど参加していて、武功も凄い。なので、本作では、本能寺の変から大阪の陣あたりまでの大きな出来事がよくわかる上、当時の近畿、中国、四国あたりの動静も把握できます。

その家政が、タイトルにあるように「狸」ということなんですが、これは伊達政宗が家政のことを「阿波の古狸(あわのふるだぬき)」と言ったとされているくらいなので、まあそうですね。化かす「ようにみえる」ということなのでしょうね。父親譲りな能力なんじゃないでしょうか。

頭がよかったんでしょうね。戦国武将というのは「義」と「家を守る」の間をいろいろな局面においていかに取捨選択していくかで、生き残れるかどうかみたいなところがあると思うんですが、家政はそこを巧みに取捨選択していけたのかなぁと思っています。ただ、それが、外からみると、タヌキの化かし合いのようには見えると思うので「阿波の古狸」というのは言い得て妙。

家政の糸の上を歩くようなヒリつく取捨選択の様相は作品を読んでみてもらえればと思うのですが、基本的に家政の選択は「家を守る」ことを重視していたかなぁとは思います。かといって「義」を重んじないかと言えばそうでもない。かつて臣従した人への恩を口にしたり、国を豊かにすることを望んだりと、そういう面も多分に持っているので、阿波の人たちからは慕われたのかなと思います。

個人的には、上杉景勝(と直江兼続)のような、「義」を重んじて行動してしまったことで減封という憂き目にあってしまうけれども、それを重んじる武将が好きな管理人ですが、家政がダメかというとそんなことはないです。生き残ることは大事。

優秀であったがために、豊臣秀吉にも重用された家政なので、有名人や優秀な人とのやりとりも多く、石田三成や、堅田兵部(かただひょうぶ)らとのやりとりのあたりも非常に面白かった。しかし、他の作品とかでは家政が目立って出てこないのは何でかなぁ。まあ、家政がその人たちに大きく影響を与えたかと言われると、それはそれでない気がするのでそんなものなのかもしれない。

ハイライトはやはり日本が東西に分かれて関ヶ原での決戦に向かう中で毛利が西軍についたあたりからの一連のところでしょうか。管理人は史実として蜂須賀家が東西どちらについたか知らずに読んでいた(なんとなくしか覚えておらず、どっちだったっけな?の印象)ので、ここでどう家政が立ち回るのかと気を揉みました。どちらに転んでも終わりに向かうじゃんっていう絶体絶命の状況で、果たして家政はどうするんだと思っていたんですが、繰り出した手は、まさに蜂須賀家が生き残るにはあの手しかなかった最善の策だったんだろうなぁと思います。

そんな家政ですが、上手く立ち回り続けられたかというとそんなこともなく、蟄居させられたり、仏門に入ったりもするので、ここまでの話で「なんでそうなる?」みたいな部分があるかもしれませんが、そのあたりは本作を読んで楽しんでもらえればと思っております。

巻末に特別書下ろし短編の「雀は百まで」という作品が収録されていて、これなんだろう?と思いながら読んだのですが、本編とめちゃくちゃ関わりありますので、それも読んでみてください。家政らしさを象徴するようなエピソードと、最終的に蜂須賀家というのは、幕藩体制が終わる江戸時代の最後まで残ったそうですが(逆にその後なくなったの!?)、その因果を感じさせるようないい感じのエピソードが語られますので。

ということで、本人は望まずではありますが、大名の嫡男として生まれたことにより戦国時代の覇権争いに巻き込まれるも、父親譲りの才覚で世を渡っていく蜂須賀家政の、絶妙な判断と、見事な化かしっぷりを堪能できる本作、是非読んでみてください。面白いです。

あ、そうだ、有名なあの踊り、そうです、阿波ですからあの踊りですね。あの踊りがいつどういう経緯で誕生したのかも本作でわかります。諸説あるようですが、本作で語られる説が事実であって欲しいですねぇ、毎年、夏に高円寺で行われるあの祭り、自宅が近いこともあり、実際に見にいくこともあるのですが、これから見る時は阿波の古狸 蜂須賀家政の顔を思い浮かべて見ることにします。

歴史には浪漫がある。

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