関ヶ原の戦いで名を馳せた猛将 島左近がいかに有能かはわかるのだけれども戦(いくさ)を楽しみとする狂気には全く共感が出来ない「某には策があり申す 島左近の野望」

谷津矢車

新年あけましておめでとうございます。
帰宅の移動中に読んだ作品をただただ好き勝手にレビューして自分が満足するだけというこのサイトですが、始めてから一年が経ちました。
遅々として作品数は増えていきませんが、まあ、誰かに何かを迫られてるわけでもないので、マイペースで増やしていければなぁと思っております。
引き続きよろしくお願いします。

というわけで、年末年始を挟んだわりに、ペースがさっぱり上がらなかったのは、きっと会社に行かないことで帰宅中という絶好の読書タイミングがなかったからだなぁと分析している管理人が選んだのは、前回の木下昌輝さんに続き管理人初見の作家 谷津矢車さんの「某(それがし)には策があり申す 島左近の野望」です。
最近、新しい作家さんの作品を読みたい気分な管理人です。

この作品は、サブタイトルにあるように、関ヶ原の戦いで西軍の石田三成に協力して、その武勇が後世に語られることとなった勇将 島左近を主人公とした作品でして、もうとにかく、島左近の戦(いくさ)馬鹿ぶりがこれでもかと前面に出ている作品。

島左近は、いろいろな人に仕えたようなのですが、本作では、筒井順慶から最後の石田三成に主従するところまでが描かれます。

管理人、島左近については関ヶ原の戦いで石田三成に協力し名を馳せたことは知っていたのですが、詳しく調べたことはなかったので、それまでの経歴や、関ヶ原で具体的にどう活躍したのか、というあたりを知るのによいなというのと、最近の作家の方の作品を読みたいなぁという気持ちだったので本作を選定しました。

結果、経歴や活躍ぶりは想像通りだったものの、人物像はちょっと想像していたものと違っていたので「あれ?そうだったの?」と思いながら読んだんですが、巻末の解説を読んだところ、どうやら本作の島左近は、一般的に知られている島左近像とはちょっと違う感じになっている様子。

まあ、どの武将もそうですが、その人物像って、ちょっぴりある記録から作られているもので、亡くなっている以上、今となっては本当の姿は誰にもわからない。この島左近だった可能性はあるし、全部でなくても、こういう部分があったとも思えるので、まあ、そういうものも含めて時代小説・歴史小説って面白いなぁと思うわけです。

で、どう違うかというと、元々、管理人の島左近イメージは「義の人」という感じなのですが、本作では、義の部分が薄いというかもはやないというか、ただの戦好き・戦馬鹿な感じになってます。
そう感じるのは、ことあるごとに「大戦(おおいくさ)がやりたい」「もう主君には仕えることはない」みたいな発言が出ることや、有名な逸話になっている、石田三成が自分の俸禄以上の破格の厚遇で仕官させようとしたものの、それを断り石田三成の俸禄の半分に留めるという処遇を律儀に守り続けたこと、みたいな話が一切出てこないあたりかなぁ。他にもあるけど、ネタバレになってしまうのでやめよう。
とにかく、本作では島左近をそういう人物像に仕上げてます。面白いですねぇ。

しかし、その分、島左近の戦場における圧倒的な強さや畏怖感なんかは存分に感じられ、戦場のシーンは超盛りだくさんなので、そういった作品を期待している方には特によいと思います。

歴史小説・時代小説って、政略とか人物間のやり取りが多くて、戦(いくさ)のシーン、ましてや戦場のど真ん中のシーンみたいな部分を厚く書いた作品ってあんまりないよなぁと思っているんですが、この作品はそんなことはなくて、前半はちょっと大人しいと感じるものの、後半は怒涛の展開でして、全部で約400ページのうち、後半の150ページが関ヶ原合戦になっているし、そこまでも、豊臣秀吉が行なった九州平定や、忍(おし)城戦も描かれるので、いかに戦部分のボリュームがあるかが伺えるかなぁと思います。
まあ、実際、それだけ、島左近という人は戦の人だったんでしょうね。

そして、管理人が本作で印象に残ったのが、戦場のシーンを、あくまでも島左近(と、敵・見方問わず島左近の近くにいる人)から見える風景に絞って描いていること。
だから、戦場を描いた部分での臨場感が凄い。

そりゃ、多少は離れた距離にいる人も書きますが、その部分があんまりない。
例えば、関ヶ原合戦の火蓋が切って落とされて以降は石田三成なんかは全然出てこない。
確かに、各軍の将って開戦前の陣立ての時は一緒だろうけど、展開したらそこそこの距離を離れるのだろうから、その後会えるのは、戦で勝って無事生き残れた時の帰還後くらいで、そうでなければ伝令使って会話するくらいだろうし、例え生き残ったとしても、負け戦だったら逃げて散り散りになるだろうからそう簡単には会えないだろうし、味方の動向は遠目から見えるさまくらいでしか測れないだろうなぁと思える。

この作品では、関ヶ原の様子が、そんな感じで、島左近から見える風景だけで描写されていき、その時に石田三成がどうなっているかは描かれない。
「なんかあっち方向を見た感じだと押されてそう」とか、その程度の情報しか入ってこないんだけど、それが逆に、実際にその場にいる雰囲気にさせてくれて臨場感がありました。
関ヶ原合戦なんて、有名武将がたくさん参加しているのに、作中ではたいして名前が出てきません。
「あー、なんか宇喜多が奮戦してくれてる」みたいなのを、左近の目から見える風景だけで終わらせて、その代わり、左近の目の前にいる相手との描写がたくさん描かれます。
討たれる人の様子なんかは、まあ、人によりますが、その死の間際の刹那の瞬間くらいまでが描かれるところもあったりして、もうね、なんか、息が詰まるほどの読み応え。
クライマックスの関ヶ原合戦の150ページは、一挙に読んでしまいました。

そうですねぇ、管理人が過去に読んだ作品の中では「村上海賊の娘」(和田竜)で、最後、真鍋七五三兵衛(まなべしめのひょうえ)と主人公きょうが繰り広げる超激闘海上戦が海戦で最も現場を描いた印象があるのに対して、陸戦だと今のところ本作が一番かなぁってくらい戦場のど真ん中を描いてくれています。
「村上海賊の娘」では、真鍋七五三兵衛ときょうの様子が行ったり来たりで描かれましたが、本作では、基本、島左近なので、より臨場感というか、当事者感がある感じの印象です。
読んだばかりだからかもしれませんが。

ということで、散々、戦場描写が云々と言ってきましたが、そうでないグッと来る場面ももちろんありまして、特に関ヶ原での大谷刑部と島左近の息子 新吉のシーンは目頭が熱くなりました。ホント、切ない…。

そうそう、この作品では、忍城戦を皮切りに「のぼうの城」(あれ、また和田竜さんだ)で登場した、酒巻靱負(さかまきゆきえ)との邂逅がしばしば見られ、「おお…」となるんですが、「のぼうの城」では描かれなかった、靱負のその後って、本作のそれが本当ってこともないですよね?まあ、それも想像にお任せします的なものなもだろうなぁ。
その部分でも管理人は楽しめました。

さて、ここまであれこれ書いてきて、んじゃあ、管理人の島左近に対しての評価はどうなの?ってところですが、ぶっちゃけ、この作品を読んだ限りでは、管理人は島左近そんなに好きじゃないです(笑)。
この作品の島左近は、ですよ。なので、他の作品も読まないとダメですねぇ。
でも、どうかなぁ、冷静に考えると、この人が協力をしたことで、石田三成は徳川家康と事を構えることになり、結果、大谷刑部もその巻き添えを食ったともとれるし、なんだか、割を食った人って多数いたんじゃないですかね。
なんだか、そういうところもなぁ、ってところがあります。
大谷刑部、苦渋の選択だっただろうなぁ。辛し…。

以前に他の作品の投稿で話していると思いますが、管理人は、義を重んじる武将が好きなので、直江兼続とか上杉謙信・景勝とかがそれにあたるんですが、本作の島左近は、義を重んじず(というか訳あってそれをやめるのだけど)、とにかく戦・戦・戦なんです。
この感じはですねぇ、あの傾奇者前田慶次とか、新撰組の土方歳三のイメージと重なりますねぇ。土方歳三は武将じゃないですが。どちらも読んだ作品での印象だけなので、管理人が勘違いしてる可能性はあります。

なので、本作そのものは面白いのですが、島左近は管理人の武将ランキングとしては低いところに位置する結果になりました。
まあ、それも作品ごとに人物像って違っているので、他の作品を読んだらまた違ってくると思います。

というわけで、関ヶ原合戦の活躍でその名を後世に残すこととなった島左近の猛将ぶりと、関ヶ原合戦の臨場感が存分に堪能できる本作、是非、読んでみてください。面白いですよ。

最後に、本作のあとがきの解説で、本書は他の谷津矢車さんの二作品、雑賀孫市を主人公にした「三人孫市」と、曽呂利新左衛門を主人公にした「曽呂利 秀吉を手玉に取った男」を併せて読んだほうがよいということらしいので、追って、この二作品も読んでみたいと思います。
この三冊、クロスしてるのかなぁ。期待しちゃうなぁ。

歴史には浪漫がある。

ノンフィクション度
3.5
奇想天外度
0
サムライ度
5
忍者度
0
エロ度
0
管理人満足度
3.5
にほんブログ村 歴史ブログへ