今回の作品は、前回の「某には策があり申す 島左近の野望」に続き、谷津矢車さんの作品で「曽呂利 秀吉を手玉に取った男」です。
前回の投稿で、本作と「三人孫市」も読まないとなぁと言っていたんですが、早速、読んでみました。
谷津矢車さんの作品とはいえ、普段は侍や忍者が主人公の作品ばかり読む管理人なので、そうでない人が主人公の作品は果たしてどうかな?と思って読み始めたんですが、めちゃくちゃ面白かった。
読むペースがあまり速くない管理人が、前回の投稿からこの短い期間で読み終えているくらいなので、その面白さは想像に難くないと思います。
内容の大勢には影響しないので言ってしまいますが、予想通りチャンバラは一切ありません。でも、その手の作品しか読まないという方が読んでも、きっと楽しめると思いますよ。実際、管理人はめちゃ楽しめました。
主人公は、実在したという記録はあるものの、謎が多く、存在そのものも諸説あるらしい曽呂利 新左衛門(そろり しんざえもん)。
戦国の時代には「御伽衆(おとぎしゅう)」と呼ばれる偉い人達を楽しませる集団が組織されていたそうで、曽呂利は豊臣秀吉の御伽衆の一人です。お侍さんではなくて、秀吉を楽しませる系?みたいな、とんち話を得意としつつ、茶道とか和歌とか、なんかその手の文化的なものも得意とした人で、今でいうと、芸術的なセンスがあるお笑いの人みたいな、秀吉のそばにいたビートたけしさんみたいな感じの人ってイメージかなぁ。昔は、そういう人たちをお金持ちの人達が抱え込んで自分専用みたいにしてしまう文化があったんですねぇ、知らなかった。
本作は、その曽呂利 新左衛門の振る舞いが、史実で有名なあの件やこの件に関わっていた、という話が、関わった人物毎に章で分けて(例えば豊臣秀吉なら「豊臣秀吉の場合」という感じ)描かれていきます。
なので、冒頭に「本作の主人公は曽呂利」と言いましたが、作品全体を通しての主人公は確かに曽呂利なんですが、全部で9話ある各話ではそれぞれ曽呂利とは別の人物が主人公になっていて、雰囲気は短編小説集っぽい作りなんですが、それらがすべて時系列的に並んで語られるので、全然、短編小説集っぽく感じられないのが管理人にはすごくよかったです。
そういった「あれやこれやの史実に実は曽呂利が関わっていた?」みたいな点は本作の面白ポイントの一つなんですが、本作にはもう一つ面白ポイントがありまして、曽呂利は豊臣秀吉の御伽衆な上になんでも許されてしまうキャラなので、城内はもちろん、普通の人じゃ入れないような場所にまで現れる神出鬼没ぶりで、さまざまな人達をじんわり翻弄していくんですが、作中、関わる人達が「曽呂利の目的はなんだ?」と不審に思うように、読んでいるほうも「曽呂利ってなんでこんなことをしてるんだろう?」となります。
誰の味方なのか、誰の味方でもないのか、何のためにこんなことをしてるんだ?というのが作中常につきまとう謎になります。これが本作の魅力の一つ。
最終的にそれが語られるかどうかは…。言わないでおきます。でも、読後満足感は高くモヤモヤはしないので、そのあたりは安心してください。
登場する人物たちもまた多岐に渡っていて、タイトルにある通り豊臣秀吉やその近くにいる武将連中はもちろん、あの有名な茶人や大盗賊なんかも曽呂利に関わってくるので、ほら、もうこれを聞いているだけで「確かに曽呂利って何がしたいんだ?ってなりそう」って思いませんか?そのあたりも曽呂利の行動の謎感をガンガンに高めてくれます。
そして、気になる方は気になりそうな「曽呂利(そろり)」という名前。
まあ、これも想像に難くないと思いますが、本当の名前ではなくて芸名的なもののようで、ウィキペディアによれば名跡(みょうせき)なのだそう。
名跡ってあれです、服部半蔵とか雑賀孫市、中村勘九郎みたいな、偉い人が継いでいく名前ですね。
本作に登場する曽呂利は、初代のはずなので当然名跡的な扱いはしてなくて、あだ名みたいな感じ。本当の名前は違うんですが、本作中では明示されなかった気がしますがどうだったかな?
実際、本名についても諸説あるようなので、いずれにせよ、そこは気にせず曽呂利新左衛門のまま読み進めていいと思うんですが、んじゃ、それはそれで「そろり」って何か訳あってついたの?って話なんですが、訳あります。
これも諸説あるようなんですが(こればっかり)、本作では実際の記録にあるものと同じ、曽呂利の元々の仕事である鞘師(さやし)の頃のことがきっかけになってます。
詳細は読んで確認していただきたいんですが、曽呂利って元は鞘師なんです。
鞘師って何?という方に少し説明すると、まあ字面そのまんまなんですが、刀を収める鞘(さや)を作る人、ですね。
そこから、どうして秀吉を楽しませる御伽衆に入ることになったのかは、これまた本作中で描かれますので、読んでみてください。
そうでした。本作が読み始めから一挙にのめり込める要素の一つに導入部分の衝撃があるんでした。
この曽呂利の鞘師からの転身についてが、本作の最初も最初、一番初めに描かれるのですが、これが衝撃で、もうそこで一挙に本作に対しての興味を持っていかれます。
その衝撃からの、のらりくらりとした曽呂利の立ち居振る舞いのギャップに対しての怖さと、何をしでかすのか、という興味、そして、重ねて言いますが、曽呂利は何のためにこういうことをやってんだ?というのが積もって、一挙に最後まで読んでしまいましたねぇ。
やっぱり、それだけ面白かったんだなぁ。
本作は、これまで紹介してきた作品群とはちょっと風味が異なっていますが、戦国時代を舞台にしたミステリーサスペンス的要素を含んだ感じで、それはそれで非常に楽しめました。
どれもこれも、曽呂利が影響を及ぼした部分については、谷津矢車さんが作り上げたフィクションなのだと思いますが、実際そうだった可能性がないとは言い切れず、本当にそうだったかもしれないと思わせてくれるのがたまらないですねぇ。
そういう史実や記録の隙間を想像できるのが歴史の面白いところで、本作はそういう点を存分に使って、点と点を繋いで線にしていってるのが、本当に凄いなっていうか楽しいです。
あー、そうそう、本作は多数の史実を絡めてくるので、楽しく歴史を学べるという点でもよいのじゃないですかねぇ、テストで出るようなものじゃないけど、歴史好きにはへえと思えることもあるのじゃないかと思います。実際、管理人はありました。
映像化の可能性はどうかなぁ。戦国時代の話ではあるものの、チャンバラ要素が一切ないので、映像映えはさせづらいんじゃないかなぁ。ああ、でも戦国ミステリーサスペンス的にしちゃえばいけたりするかもしれません。歴史好き以外に響くかがちょっとわからないですが。
鮟鱇(あんこう)顔と揶揄される曽呂利役をやる役者さんも難しいかもですねぇ。誰が適任だろ…。ちょっと思い浮かばないなぁ。
あ、そうだ、読むきっかけとなった同じ谷津矢車さんの作品「某には策があり申す 島左近の野望」との連動は残念ながらほとんどありません(笑)。
「某には策があり申す 島左近の野望」に曽呂利と策伝というもう一人の人物がちょっろっと出るので、本作を読んでいればそこで「おお」となるくらい。
なので、そういう意味では「某には策があり申す 島左近の野望」よりも先に本作を読んだほうが楽しめると思いますよ。その順で読むことをお勧めします。
さて、「三人孫市」も読まねば。
というわけで、また、ダラダラと書いてしまいましたが、御伽衆の一人として豊臣秀吉に仕えた怪人 曽呂利新左衛門の、怪しさ満点の活躍(?)を描いた本作、面白いです。チャンバラ要素はないですが楽しめるので是非読んでみてください。
歴史には浪漫がある。
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