源頼朝が興した鎌倉幕府の主導権争いに垣間見る人間の裏表が酷いんだけどこれが後の太平記の話に繋がっていくのかと思うとなんだかワクワクして読める自分は趣味が悪いかもと思えた直木賞受賞作「炎環」

永井路子

こんにちは。

どんどん暖かくなってきております。と、同時に花粉が厳しいです。
せっかく暖かくなってきているんですが、東京は3月7日までと言われていた緊急事態宣言が再び二週間の延長ということで、相変わらずの外出控えを継続しております。
ワクチン接種が開始されたので先は見えてきたかなという気はしてますが、ここまで注意して罹患しないようにしてきたので、気を抜かずに注意していきたいと思います。

さて、そんな中、今回も、前回の投稿からあまり時間を開けない投稿になりました。
年度末だからでしょうか、なんとなく出社の機会が多くなっておりまして、通勤があるものですから、読書時間が確保できていることもありますが、なんといっても「面白かった」から、が一番の理由かと思います。

そんな今回の作品は、管理人初読み作家となる永井路子先生のもので、1964年に第52回直木賞を受賞した作品「炎環」(えんかん)です。

この作品も「おすすめ歴史小説」のランキングなんかではよく目に入る作品で、以前から気にはなっていたんですが、タイトルからは内容が想像できなかったので、なんとなく手にとっていませんでした。
しかし、今回、書籍を探してAmazonをウロウロしていたら、「あなたへのおすすめタイトル」として出てきまして、概要をみたら「源頼朝」という文字が躍っていたので、すかさずポチっと購入をクリック。
そして、届いてみたら、カバーに「2022年 大河ドラマ主人公 北条義時に決定」の帯が。
そうなんですね、この作品、2022年 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公 北条義時(役:小栗旬くん)が登場するんですね。
管理人、そうとは知らず購入したんですが、それを見て、更に読みたい欲が増大。
大河ドラマが始まる前に予習もできて、いろいろとラッキーだなということで、さっそく読んでみました。

とりあえず、この作品、まずは何がすごいって、刊行が1964年という古さにも関わらず、古臭さが全くなく超読みやすい!
1964年というと管理人が生まれるよりも前なんですが、文章的には全くその気配を感じさせず、お世辞抜きに、令和に刊行された作品と言われても全く違和感がありません。
歴史小説・時代小説ニワカの管理人が言うんだから間違いない。
そのくらい、驚くほどに、非常に読みやすかったです。

そして、内容なんですが、これは、源頼朝(みなものとよりとも) → 源頼家(みなもとのよりいえ) → 北条時政(ほうじょうときまさ) → 北条義時(ほうじょうよしとき)という流れであった初期の鎌倉幕府での権力争いを、とある4人の目から見たオムニバス形式の作品でした。
管理人、第一章を読み終えるまで、本作がオムニバス形式だとわかりませんでした。
第一章を読み終えた時点で「あれ!?これそのタイプ?」と認識し、第二章を読み始めて理解した次第。

各章の主人公別に4章からなっておりまして、それぞれ「悪禅師」「黒雪賦」「いもうと」「覇樹」というタイトルになっております。
それぞれ、なんと読むのか?
第一章「悪禅師」これ「あくぜんし」と読むのでよいのですよね?
第二章「黒雪賦」これなんて読むのでしょう?「くろゆきぶ」?
第四章「覇樹」これも「はじゅ」?と読むのでしょうか。
どれも、いまいち自信がないのですが、とりあえず、上記のように読むことにして各章を簡単に解説します。

第一章「悪禅師」は、主人公が「阿野全成(あのぜんじょう)」さん。
最初は「誰?」と思って読み始めたのですが、その疑問はすぐに払しょくされまして、この方、源頼朝の異母兄弟なうえに、源義経(みなもとのよしつね)の同腹のお兄ちゃん。
先に司馬遼太郎先生の「義経」を読んでいた管理人はそこで「あー、そういえばいたか」と思い出しました。

鎌倉幕府を興したのは、源頼朝なんですが、頼朝のお母さんは、父である源義朝(みなものとよしとも)の正室である由良御前(熱田大神宮という、まあ、当時の神官である藤原季範の娘)です。

そして、本作第一章の主人公である阿野全成、のお母さんは、その源義朝の側室である常盤御前(ときわごぜん)さん。
常盤御前と義朝との間には息子が三人おりまして、上から、今若、乙若、牛若というんですが、一番上のお兄ちゃんの今若が第一章の主人公 阿野全成。
次男の乙若さんはよくわかりませんが、三男の牛若は牛若丸ですから源義経ですねぇ。

ということで、源頼朝のお母さんは由良御前で、阿野全成・源義経のお母さんは常盤御前ということで、お母さんが違う異母兄弟というわけです。

この阿野全成さん、ちっちゃい時に出家させられてお坊さんになっていたんですが、異母兄である源頼朝が鎌倉で旗揚げした際に、いちはやく鎌倉に駆けつけて「(生まれてから一度も会ったことないけど)お兄さんの旗揚げを聞いたからには、力にならねばと思いかけつけました」と調子のいいことを言って、頼朝に与します。
一方の頼朝も「おー、弟よ。(一度も会ったことないけど)よろしく頼むね。」とウソ泣きして喜びます。
ここに、バカ正直で戦はめっぽう強いけど政治的な感覚が皆無な弟の義経も「お兄ちゃん、俺も協力したいのです。」と参戦してきまして、ここでも頼朝は「おー、弟よ。(一度も会ったことないけど)よろしく頼むね。」とウソ泣きして喜びます。
同腹の阿野全成と源義経もほとんど一緒に暮らしたことはないので、血は近いんだけど、いい歳になって初めて顔を合わせるという、なんだか微妙な関係の兄弟が揃うわけです。
あーもうこのあたりから、書いててすでに面白い。

その後の義経の不遇は、他作品、それこそ、司馬遼太郎先生の「義経」なんかで詳細を把握するとよろしいかと思いますが、本作でも描かれまして、ただ、本作では、その際の同腹の兄 阿野全成から見た成り行きが語られます。
まあ、この時代、親兄弟関係なく争うくらいですから、一緒に生活した記憶がほとんどないくらいの兄弟のことなど…という感じです。

しかし、阿野全成は弟の義経とは違って、源頼朝には気に入られる(ように見える)んですね。
なにかと頼りにされる阿野全成は、あくまで異母兄 頼朝の裏方に徹する構えを見せるんですが、とあることをきっかけに、野望を持つようになり…、といった具合。

源頼朝の正室は、かの有名な北条政子(ほうじょうまさこ)さんなんですが、実は、阿野全成の奥さんは、その北条政子さんの妹の北条保子(ほうじょうやすこ)さん(阿波局・あわのつぼね)なんですね。
本作の中では、頼家からの勧めで保子と結婚することになるんですが、これが鍵になって、阿野全成もあれこれ考えることになってしまうわけです。

最終的に阿野全成がどうなるかは歴史が示す通りなんですが、そこに至るまでの経緯が、阿野全成の心理を中心に描かれて面白かったです。
司馬遼太郎先生の「義経」では詳細は語られてない(はず)ですからねぇ、違う角度からそれらを知るというのは、勉強にもなって、当時の情勢をイメージするのに非常によいです。

そして、第二章「黒雪賦」は、源頼朝の信頼が厚かった梶原景時(かじわらかげとき)が主人公の話。

元々は、平家方についていたものの、石橋山の戦いで敗れた源頼朝を微妙に救ったということで、その後、源頼朝の臣下となって、相当な活躍を見せます。
外から見たら、頼朝に対して相当の忠誠を持ったものと見えるのですが、実のところは…、というのが、第二章の面白いところ。

梶原景時というのは、源頼朝の命を受けて木曾義仲討伐に参戦したり、平家討伐に参戦したりと、相当に頼朝からの信頼が厚く、かつ結果も出していて、かなりの評価をされていた人なんです。

しかし、自分の本心を押し殺して頼朝に尽くしてきた景時ですが、頼朝逝去の後、それを継いだ頼家体制になって不遇の時を過ごし、その結果…、というのが第二章のクライマックスでして、この部分は、本作品の全体の中でも屈指の無念の場面を描いたところになります。
「頼家バカヤロー」でした。

第三章「いもうと」は、主人公は北条政子ですね、多分。
もしかしたら、妹の北条保子とのW主演かもしれませんが、いや、北条政子だろうな。

第一章で阿野全成の奥さんになる北条保子の立居振る舞いがたくさん描かれるんですが、それは、この第三章のフラグです。
第一章では、おしゃべりで能天気な雰囲気を醸し出す北条保子ですが、実際は…というところ。

この第三章では、北条政子の心情とともに、その北条保子の本心も垣間見れまして、まあ、そのあたりは、なんていうんでしょう、女性ならではのエグイ感じなんです。(女性に失礼か)
女性同士で、しかも姉妹、かつ、それぞれの夫が武士の棟梁としてあがめられる源氏の血族という二人の微妙な関係がエグイくらいに描かれます。

また、第一章のラストで描かれた阿野全成の結末の裏側が本作で見れる、というのが、まさにオムニバス形式のよさだなぁと思いました。

そして、最後の第四章「覇樹」は、2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公 北条義時と、その父 北条時政の父子が主人公です。

これまでの登場人物の相関関係でいくと、北条時政というのは、源頼朝の奥さんである北条政子と、阿野全成の奥さんである北条保子のお父さんでして、つまり、北条義時は、北条政子・北条保子と姉弟ということ。
義時にとって、政子はお姉さんみたいですが、保子は姉なのか妹にあたるのかはよくわかりませんでした。(どうやら、義時の妹にあたる様子)

いずれにせよ、父 北条時政が虎視眈々と狙った鎌倉幕府での権力を、息子である義時が掴んでいく様が描かれているんですが、この義時が、ボーっとしてまして、とてものし上がっていくようには見えないんですが、それは羊の皮をかぶった狼のようでして、キラリと光る才覚によって、それを成し遂げていくことになるわけです。

ということで、これら、4つの視点からの鎌倉幕府での権力争いを描いておりまして、それらが微妙に絡み合う様が、非常に面白かったです。

しかし、今、これを書きながら、2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のキャストを見てますが、もう、これ、期待しかないなぁ。
北条義時が小栗旬くん、北条政子が小池栄子さん、源頼朝が大泉洋さん、源義経が菅田将暉くん、比企能員(ひきよしかず)が佐藤二朗さん、梶原景時が中村獅童さん、三浦義村が山本耕史さん、とか、もう、本作「炎環」でバリバリ出てきた方達を、このそうそうたる面々で見れると思うと楽しみで仕方ないです。
そして、脚本が三谷幸喜さんですからねぇ。
「新撰組!」「真田丸」は管理人 大好きですから、「鎌倉殿の13人」も大変期待しております。

そうそう、「鎌倉殿の13人」ということで、この「13人」って何よ?ってことなんですが、これも本作「炎環」を読むとよくわかります。
簡単に説明すると、鎌倉幕府を興した源頼朝ですが、その後を、息子である源頼家が継ぎます。
しかし、この頼家がイケてなくて、父頼朝の死後「お前(頼家)じゃ政治を仕切れないので、我々13人の合議制にするからね」ということで、頼家は権利を剥奪されて、御家人13人に政治が委ねられます。
その後、その中で、北条家と比企家が力を持つんですが、最終的に北条家が権力を握るわけです。
そのあたりのすったもんだを描くのが「鎌倉殿の13人」なんでしょう、多分。

本作「炎環」で描かれる北条義時の雰囲気に小栗旬くん合ってます。
その他も合ってます。
比企能員の佐藤二朗さんだけ合っているかがわかりませんが、たしか「炎環」でもそんなに出てこないので、そこは仕方ないです。

とにかく、期待しましょう。

ということで、毎度のことながら、今回も愚にもつかないレビューとなりましたが、本作、非常に面白いです。
2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の予習にもうってつけだと思いますので、是非、読んでみてください。

いやしかし、毎回つけている記事の最後の評価表の各項目が、今回はどれも振るわないのに「管理人満足度」は「4」ですから、そもそも、評価軸がイケてないというのが完全に露見されてますね。
まあ、いいんです。
そう深いこと考えてこのブログは始めていませんから。
管理人が当初思いついた評価軸以外の部分で、本作はめちゃくちゃ面白いです。
是非、読んでみてください。(二回目)

歴史には浪漫がある。

ノンフィクション度
3
奇想天外度
0
サムライ度
3.5
忍者度
0
エロ度
0
管理人満足度
4
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