戦がなくなり生きがいを失った足利尊氏が最後に戦うことを熱望した九州の怪物 菊池武光と後醍醐帝の皇子 懐良親王がタッグを組んで九州統一に挑む姿が激かっこいい「武王の門」

北方謙三

こんにちは。かなーり、久しぶりの投稿になりました。
前回の投稿から、二か月以上経ってしまいました…。

本を読んでいなかったかと言われると、そんなことはないんですが、いかんせん本職は別でして、こちらは完全に趣味なものですから、なかなか時間を割くことができずでして。
これまでの投稿でもお伝えしてますが、コロナによって自宅でのテレワークが増えたものですから、趣味読書の時間に充てていた通勤というものがなくなり、なかなか時間を割けずにおる次第です。
1月7日には、再び緊急事態宣言が発令されたものですから、また、週に1~2回の出社になっておりまして、自ずと趣味読書の時間も少なくなっております。
「家にいても時間を作ればよい」と言われましても、それはなかなか難しく、その時間を仕事に充てている次第。
まあ、誰に締め切りを迫られるわけでもないので、マイペースでいきます。

ということで、今回の作品ですが、いよいよ北方謙三先生の南北朝シリーズも大詰めで、前回予告した通り、九州の雄 菊池武光(きくちたけみつ)と、イケてない後醍醐帝とは真逆なイケてる皇子 懐良親王(かねよししんのう)がタッグを組んで九州を治めていく様を描いた「武王の門」です。

いやぁ、本作、めっちゃ面白かったです。

読了に二か月くらいかかってしまったので、「そうでもないんじゃね?」と疑う方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。
ぶっちゃけ、管理人は、ここまで読んできた北方謙三先生の南北朝シリーズの中では、南朝方のスーパーエース北畠顕家(きたばたけあきいえ)を主人公にした「破軍の星」と、本作「武王の門」が1位、2位を争う感じです。そのくらい面白かった。

「んじゃあ、なんで二か月もかかるのさ」というのは、一つは読書時間が割けなかったことがありますが、あとは、本作が上下巻の大作になっているからですね。(二冊くらいで大作とか言うな、という意見はご勘弁を)

ということで、いつものように、だらだらとレビューしてみます。

まず、本作は、時代的には、1340年頃から1375年頃までのお話しでして、楠木正成が亡くなったのが1336年、後醍醐帝が亡くなったのが1339年、足利尊氏が亡くなったのが1358年なので、太平記的な話でいくと、わりと後半からのスタートな感じになります。

後醍醐帝というのは、足利尊氏に追われて吉野に逃げた後、自分の息子たちをあちこちに向かわせて、それぞれ散った土地でその皇子たちの力によって再び権威を得ていこうとしたらしいのですね。
その際に、まだ、7歳だか8歳くらいの懐良親王に「九州のほうにいきなさい」と指示し、ちびっこの懐良親王は、近臣の者たちに支えられて四国を経て九州に渡ったらしいです。そのあたりが本作のスタート。
ちなみに、九州は薩摩(鹿児島)のあたりに上陸したらしく、その後、北上していくことになります。

しかし、九州に渡ったのはいいけれども、九州は足利尊氏が少し前までいた(管理人の好きな南朝のスーパーエース北畠顕家に追われて九州に逃げた件ですね)ものだから、全体的に北朝、つまり幕府側についている人達が多く、しばらくはひっそりと暮らし力を養うわけです。

余談ですが、懐良親王に協力する人達の中に「山の民」というのが出てくるんですが、この「山の民」というのは、懐良親王の兄にあたる大塔宮(おおとうのみや)護良親王(もりよししんのう)が近畿で戦う際にも味方する人達として出てきてまして、これ、実際もそうなのか、北方謙三先生的解釈でそうしてるのか。
どちらの作品でも、南朝方に与する存在として登場するので、ちょっと気になっていたりします。
知っている方がいらしたら教えてもらいたいですねぇ。

話を戻します。
そうこうしているうちに、南朝に味方をしていた肥後(熊本)の菊池の一族の中から、菊池武光というとんでもなく凄い人が爆誕しまして、その人と合流して「よぉーし!やぁってやるぜぇ!」と、超獣機神ダンクーガの藤原忍(古っ)ばりに、九州を平らかにしていくための戦いを開始します。
ここからがやっと本編という感じ。

そこからは、菊池武光とともに、薩摩の島津やら、九州探題(近畿における京都の六波羅探題みたいなもの)の一色範氏(いっしきのりうじ)や、少弐頼尚(しょうによりひさ)らと喧々諤々(けんけんがくがく)をやりながら、九州を平らかにしていくための戦いを繰り広げるのですが、ここで、他作品と違うのが、本作では行動範囲に、日本じゃないところ、高麗(こうらい。今の韓国・北朝鮮のあたり、つまり朝鮮半島のあたりですね。)や明(みん。だいたい中国ですね。)が登場してくるあたり。

このあたりなるほどねぇ、と思ったんですが、裸一貫で九州に渡った懐良親王ですが、戦をするにしてもお金はないわけです。
力になってくれた菊池武光も有力な武将ではありますが、九州のほとんどが幕府方、つまり反懐良親王・菊池武光の状態なので、お金の出どころはないわけです。
でも、戦をするにはお金がかかる。
で、どうしたかというと、高麗との交易でお金を稼ぐという寸法。なるほどねぇ。
この頃、高麗や明との交易は、非常にお金儲けできたようです。
っていうか、この頃から、貿易って盛んだったんですねぇ。すごいなぁ。

高麗は、本作の中では、そこそこお話しの舞台になりまして、懐良親王も数回行き来します。
途中、対馬(つしま)にも立ち寄ることになるので、そこでのお話しも少し発生するのですが、本作を読んで「対馬って、むしろ日本よりも韓国に近いのか…」と発見でした。勉強になります。

本作の主人公は、この懐良親王と菊池武光ということになるでしょう。
少弐頼尚も、結構出てきますが、まあ、主人公ではないです。

懐良親王は、皇子とはいえ、その志は父である後醍醐帝のそれとは違いイケてます。
後醍醐帝は、ほんと、ダメダメでしたからねぇ。
懐良親王のイケっぷりは、母は違えど、同じ皇子であり、兄にあたる大塔宮(おおとうのみや)護良親王(もりよししんのう)に似ていて、この二人が組んでいたらもうちょっと違っていたかも、といったところで、年代が違うので無理なんですが。
そして、その懐良親王とタッグを組む菊池武光は、公家ではありませんが、南朝の西のエースと呼ぶに相応しい超強烈な強さを持った武士でして、この二人が九州の幕府方の勢力をガンガン撃破していくのが痛快。

最終的に、二人が九州を統一できるのか否かについては本作を読んで確認していただくとして、懐良親王も菊池武光も、当時誰もが気にした京にこだわらなかったのが印象的であり、ある意味、正解だったのかなぁ。
二人はとにかく京にこだわらない。
近臣の者で京にこだわるものがあっても、彼らはこだわらない。
京にこだわる近臣の者のことを考えると、それはそれで可哀そうなんですけどね。
五条頼元…。

んで、彼らが何をしようとしていたかというと、九州を日本とは別の一つの国にするということ。
「もう日本は幕府に好きなようにさせといていいんじゃね?んで、九州は別の国にして我々で回さね?」的な。
実際にそうだったのかはわかりませんが、本作ではその志を多少持ちつつ、なんなら、高麗までも含めた国にするか?くらいの勢いを見せますので、舞台はずっと、九州・高麗な感じになります。
近畿、全然出てきません。

実際、当時の高麗や明の使節は、日本との交渉の際、九州に入って懐良親王を「王」とし窓口にしていたそうで、本作で描かれている内容は、あながち間違ってもいないのでは?と思えます。
本当のところはわかりませんが。

あとは、船の上というか、海の上のお話しですね。
九州での行いのうえでもそうですが、高麗や明との行き来もあるので、水軍や海での活動を生業にした人たちとのやりとりも多く、まあ、当然ながらそうなると、この地域の話ですから、有名な村上水軍あたりも登場してきまして、「おお、やはり、この頃から日本の水軍と言えば村上水軍が外せないのだなぁ」と思いました。
なんなら、そういった海の上で生活する方との間に、懐良親王との…っという、超重要な繋がりもあったりします。

本作のクライマックスは、日本三大合戦の一つに数えられる、上巻ラストの大保原(おおほばる)合戦(筑後川の戦い)と、下巻ラストの、懐良親王・菊池武光率いる征西府(せいせいふ)軍 vs 九州探題 今川了俊(いまがわりょうしゅん)率いる幕府軍との大宰府(だざいふ)での合戦になると思いますが、どちらも手に汗握る激熱展開で、戦の際に菊池武光軍が用いる「鳥雲(ちょううん)の陣」の脅威なども存分に味わえて、想像するとワクワクしてしまいます。
「鳥雲の陣」は、作中だけのものかと思ったら、実際にあるのですかね?
作中の描写で想像するに、めちゃかっこよくて、ぜひ、映像化したら見てみたいです。

また、本作は長い期間のお話しなので、当然ながら、懐良親王・菊池武光の近臣の者が亡くなるということもあるわけで、とりわけ、忽那重明(くつなしげあき)、堀田安秋(ほったやすあき)、城武顕(じょうたけあき)の最期などは、涙なくしては読めません。堀田安秋は絶句という感じですが。
この三人は実在したのかが不明ですが、もし、お墓に行ける機会があるとすれば、お線香を上げたい気持ちでいっぱいです。

ということで、また、愚にもつかないレビューをしてきましたが、冒頭にお伝えした通り、個人的には、本作は北方謙三先生の南北朝シリーズの中では「破軍の星」と1位、2位を争うくらいに面白かった作品で、何がよかったのかなぁと思うと、あれですね、「太平記」では描かれない部分でありながら、バックグラウンドというか、やや距離を置いたところに「太平記」のストーリーがあって、それがちょいちょい絡みつつも、基本的には、まったく知らない話になっていることと、なんとなく、南朝贔屓な管理人なので、南朝側の主人公が活躍するという内容が気持ちいいとか、そういう感じなのかと思いますね。
「破軍の星」は東北が舞台になっていて、本作「武王の門」は九州が舞台で、どちらも、「太平記」の舞台となる近畿から離れてるってのもいいのかもしれません。
懐良親王についての実際の記録はそんなにないみたいなので、どこまでが真実かはわからないんですが、でも、真偽はともかくとして、九州をゆっくり回って、ゆかりの地等を見て回りたいなぁと思っています。

しかし、九州はいいですねぇ。
本作のラストの舞台になる「大宰府」あたりはぜひ行ってみたい。
そして、鎮魂のお参りをしたい。
管理人、九州は宮崎にしかいったことがありませんが、その時は、鵜戸神宮(うとじんぐう)と西都原古墳群(さいとばるこふんぐん)しか行けてなくて、また行きたいと思ってますし、他にも見どころ一杯だと思っているので、いつか、九州全部をじっくり周ってみたいなぁと思ってます。
なんかね、九州って神々しい雰囲気があるんだよなぁ、くにつくり神話的なものも多いですしねぇ。

さて、長らく読みすすめてきた北方謙三先生の南北朝シリーズも、いよいよ残すところ残り一冊となりまして、その残り一冊が、本作「武王の門」の続編ということで、管理人、早く読みたくてウズウズしております。
当然ながら、次のレビューはその続編「陽炎の旗」です。うひゃー、早く読みたい。

BSプレミアムで再放送している「太平記」も後半に入っている気配だし、ちょうどいい感じですね。

最後、「陽炎の旗」で、懐良親王・菊池武光の志がどう引き継がれたか、足利幕府はどうなるのか、見納めてみたいと思っております。楽しみです。

歴史には浪漫がある。

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