幕末の英傑は、西郷隆盛や坂本竜馬、新選組だけじゃない。密かに爆誕していた河井継之助という越後長岡藩の風雲児が、真のサムライの姿を魅せてくれる「峠」

司馬遼太郎

ずっと気になっていた司馬遼太郎先生の作品をやっと読了しました。
昭和41年から昭和43年まで「毎日新聞」に連載されていたものだそうで、「竜馬がゆく」と「坂の上の雲」の間の作品になるのだそう。
この頃の司馬遼太郎先生は幕末推しだったんですかねぇ。見事に幕末作品の連投です。

というわけでこの作品。ネット上の「おすすめの司馬遼太郎作品」にとどまらず、司馬遼太郎シバりのない「おすすめの歴史小説、時代小説」なんかにもランクインしてくるので、前々から気になっていたものの、同じ新潟出身の管理人も知らなかった河井継之助というニッチな人選なのと、幕末ものだったので、ちょっと戦国時代を読みたい気分だった管理人は後に回してしまってました。

作品の感想は「管理人はめっちゃ面白かったけど、河井継之助はやはりちょっと地味かも。もっと名前売れてたらねぇ…。」です。いや、面白いんですよ。誤解しないでくださいね。

司馬遼太郎作品なうえに、おすすめで名前が挙がるくらいなので、面白いのは間違いないんですが、いかんせん、河井継之助という人選がだいぶニッチなところを狙ってるので、多少前情報がないと「誰?」ってなるんじゃないかなぁ。
なにしろ、新潟出身の管理人も本書を読むまで河井継之助を知りませんでしたから。
長岡周辺の人達には知られているようですが、もっと新潟県は、河井継之助を推してもよいのではないかなぁ。謙信、兼続もよいですが。

内容ですが、時代は幕末です。
大政奉還が起こる前くらいから、戊辰戦争までがこの作品で語られる時期です。
やれ尊王攘夷だ、倒幕だ、佐幕だと騒いでいる時に「あー、これ日本やばいね、この先だいぶやばいね、やばいけど長岡はそのやばい流れに飲まれないようにしないとね、それは俺がやらないと、ってかそれ俺しかできないし」という、当時の他の人からみるとヤバいんですが、実はすごい青年が河井継之助です。

このヤバそうだけどすごい青年は、越後長岡藩の藩主牧野氏の家臣 河井さんの息子なんですが、最初、だいぶ金遣いの荒いドラ息子感を出して、親のお金を使って、江戸や横浜に行って勉強したり、その後も、だいぶお金を出させて、しまいには長崎にまで行ったりします。最終的には藩のお金も遣います。
しかし、この青年が、その後、超絶に大成します。活きたお金の遣い方というのは、こういうことを言うのですかね。まあ、活きたかって言われると、結末をみる限り微妙ではあるのですが…。

先見の明がありすぎるというのですかね、頭が良すぎて、ちょっと普通の人達からみるとイカれて見えたのでしょうけど、実は誰よりもすごいことを考えていた、という感じ。

「そんなに凄いのなら、なんで名前が知られてないの?そこまで凄くはないんじゃないの?」となるかもしれませんが、それはやはり戊辰戦争の際にとった長岡藩の立ち位置だったり、あとは新撰組と違って、チャンバラ要素が少ない、というか無いので、物語として仕上げるには難しかったのかな、と。それを司馬遼太郎先生は「峠」という作品にしてくれたわけですね。ありがたいです。

「戊辰戦争時の長岡藩の立ち位置」については、オチに繋がるので詳しいことは書きませんが、この作品では、継之助がそれ(長岡藩の立ち位置、目指す未来)を実現するために奔走する姿が描かれます。

途中、様々な人々との出会いがあり、誰しもに「河井さん、あなたほどの人なら、長岡藩に拘らないで、この日本をどうにかすることを考えましょうよ。」と誘われるんですが、継之助は、終始、それを断るんですね。読んでいる最中は「なんでそんなに”長岡藩さえよければよい”みたいな考えなんだろうなぁ」と、ちょっと残念な気持ちになるんですが、最後にそれが効いてきます。そこからがクライマックスですね。

作品は、冒頭からずっと、河井継之助の日本漫遊っぽい様子が描かれますが(遊びで行っていたわけじゃないですよ、たぶん、まあちょっとあるかもですが…)、鳥羽伏見の戦いで幕軍(東軍)が破れ、薩長の西軍が越後(新潟)に侵攻してくる全体の5/4くらいからが手に汗握る展開になります。
個人的には、そこまでのやや落ち着いた雰囲気は、そこからのクライマックスのための壮大な前フリだったかぁ、と思えるくらい終盤は怒涛の展開になります。
もちろん、長岡藩と河井継之助の結末も描かれるんですが、終始謎めいていた河井継之助の真意(長岡藩はどういう立場をとろうとしているのか、それによって日本をどうしようとしているのか)を知った時には、鳥肌がたちましたね。「えぇぇぇぇ、そういうことー!!!」ってなりました。すごいことを成し遂げようとしていたのですよ。

この越後 長岡を中心とした戦いはのちに「北越戦争」と呼ばれ、戊辰戦争で最も苛烈を極めた戦いであったと言われます。
鳥羽伏見の戦いで勝った西軍が、東へ侵攻する際に通った3つのルート(北陸道、中山道、東海道)の中で、どうにも北陸道が突破できずに、最終的に西郷吉之助(西郷隆盛)まで出張ってきたそうです。西郷吉之助の実弟 西郷吉二郎(きちじろう)はこの北越戦争で戦死していますしね。
苛烈になった原因は、まあ、継之助にありますね。それが、継之助の名が広く知られずに来てしまった理由にもなってるんだと思います。
でも、本当は誰よりもそうならないように継之助は考えて…、ああ、もぅ…。

結末は、作品を読んで知っていただきたいんですが、まあとにかく、チャンバラ要素は少ないものの「侍(サムライ)とはこうあるべし」を、常に持ち、その信念に基づいて、幕末の騒乱に長岡藩という小藩から立ち向かった河井継之助という男の切なく哀しい物語なのです「峠」は。
終盤は涙なくしては読めません。ぐすっ。

というわけで、長々と書きましたが、なんと、この「峠」が2020年に役所広司さん主演で映画化されるとのこと。しかも、サブタイトルが「最後のサムライ」。う~ん、いい感じですねぇ。
本書を読み始めてから、本屋に立ち寄った際に知ったのですよね、持ってますねー、私。

「峠」は、これまで、全くドラマ化も映画化もされていないらしく、初映像化とのこと。
役所広司さんの継之助は、ハマり役な気はしますが「継之助を演るとしたら誰がよいかなぁ?」と読みながら想像していた時に、まっさきに思い浮かんでいたのが役所広司さんだったので、意外性はないのですが、まあ、とはいえ、間違いはないと思うので、期待してます。
周りを固めるキャストの方々もいい感じなので、非常に楽しみです。

終盤は、その無念さを想うと、泣かずには読み進められない切ない物語ですが、映画公開も控えていることですし、幕末モノ好きの方、新潟出身の方はもちろん、そうでない方も、越後の小藩で密かに幕末の争乱に抗おうとした河井継之助という最後のサムライの物語を是非読んでみてください。

歴史には浪漫がある。

ノンフィクション度
3.5
奇想天外度
0
サムライ度
4.5
忍者度
0
エロ度
0.5
管理人満足度
4
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