戦国時代までは朝敵と評されたものの後に諸葛亮孔明と重ね合わせて語られるほどの評価を得て第二次世界大戦前までの学校教育では忠臣の鑑と紹介されていたという稀代の英雄の無念さを思ったら夜も眠れなくなりそうな「楠木正成」

北方謙三

こんにちは。
ひさしぶりの投稿になりました。

非常事態宣言が解除になったことで、オフィスへの出社が再開されていたのですが、感染者数拡大の報を受けて、非常事態宣言が出ていないものの、再びリモートワーク主体の体制に変わってしまったので、一番の読書タイミングである通勤がなくなってしまい、ちょっと読書のペースが鈍ってしまってたかなぁ。
あとは、上下巻の作品であったことも理由としてはあるかもしれません。

さて、今年のお盆は帰省をやめることにしました。
お盆に帰省しないのはもう20年以上ぶりじゃないかと思います。

毎年帰省を楽しみに待っている両親からも、さすがにこの状況なので「帰ってくるな」と明言されました。
「我々、歳をとってるから、万が一、感染するといけないから」というのが表向きの理由ですが、超がつくほどの田舎なので、それに負けない理由として「あの家は東京に出している息子が帰ってきてるぞ」などという陰口を近所の人達に叩かれるのを避けることがあるのだと思います。
お墓のあるお寺からも「県外の方のお墓参りはご遠慮ください」の書面が各檀家に届いているのだそうです。
想像がつきます。
なので、今年はお盆の帰省はせず、コロナが終息したら行こうかなと思います。

しかし、困ったものですねぇ、コロナ。
感染者数は増加の一途だし、収束していく気も全然しない。
外出もできないから、日焼けもしてなくて、なんだか身体のどこかがおかしくなってんじゃないかとさえ思えます。
終息の目途だけでも立ちそうな何かっていうものの早い出現を待ちたい。

そんな中、今回の読了作品は、北方謙三氏の「楠木正成」です。
「くすのきまさしげ」です。

いよいよ来ましたねぇ、楠木正成。大楠公(だいなんこう)です。
いや、管理人、全然知見がないんですけどね。

このところの「戦国、幕末以外を読みたい」感がそのまま出た感じなんですが、ちょうど、BS NHK で「太平記」をやってまして「あぁ、太平記を読めばいいのか?」などと思っていたものの、太平記をそのまま読んでしまっては、この後、ドラマを見ていくのが面白くなくなるといけないと思いまして「楠木正成って凄いらしい」ということだけは知っていたので、そのセンを狙ってみました。

そこで出てきたのが、北方謙三氏の「楠木正成」。

ただですねぇ、管理人のイメージとしては、北方謙三氏と言えば、ハードボイルド作家なんです。
ハードボイルドと言えば、管理人が幼少の頃に読んだ大藪晴彦氏の「蘇る金狼」とか「野獣死すべし」とかあの手のものだと思ってまして(実は北方謙三氏の作品は読んでいない)、なんか、昼間は普通のサラリーマンなんだけど、実は拳銃持ってて、睡眠もとらず、食事はパンだけで、夜な夜な悪い人を殺す、みたいな(超偏見)、そういうものを書いている人の歴史小説・時代小説っていうのはどういうものか?という感じだったのですが「まあ、ハードボイルドな歴史小説というのがどういうものか見てみようじゃないか」という気持ちもあり手に取ってみたところ、めっちゃ普通にちゃんとした歴史小説でした。偏見酷くてごめんなさい。

しかもですね、めちゃくちゃ読みやすい。
果たして北方謙三氏が「めちゃくちゃ読みやすい」という評価を快く思ってくれるかが不明ですが(このあたり、またしても、ハードボイルド作家に対する偏見)、幼少の頃に読んだ大藪晴彦氏の作品がやたら難解に感じた(それは今思えば管理人が小僧だったからであろう)それとは全然違ってまして、本当に読みやすく、ぶっちゃけ、司馬遼太郎先生よりも読みやすいと思います。(司馬遼太郎先生も好きなんですよ)

ということで、また前置きが長くなりましたが、いつものように作品についてネタバレしない程度でお話しますと、まず「南北朝って、めっちゃややこしいなこれ」です。
いやぁ、ややこしい。
読み終えた今、もう一回、最初から読みたい気持ちでいっぱいです。

時代がですね、鎌倉時代と室町時代の間に存在するのが「南北朝時代」でして、1336年から1392年までの間がそれなんですが、楠木正成が「よし、やってやるか!」と挙兵するのが1332年で、南北朝時代に入るちょっと手前。
つまり、南北朝という状態を作るきっかけになった争いごとの中心に、鎌倉幕府(北条)やら、後醍醐(ごだいご)天皇やら、足利尊氏(あしかがたかうじ)やら、新田義貞(にったよしさだ)らと並んで、主役になったのが楠木正成なんですね。

そもそも「南北朝ってなに?」っていうのが、管理人も読む前にあったんですが、簡単に言うと、朝廷(天皇)が二人いた状態、という、もう聞いただけでヤバそうな時代があったんですね。

元々は、後醍醐さん(後醍醐天皇)がいたところに、足利尊氏が別の血筋の光明(こうみょう)さん(光明天皇)を担ぎ出してきて「ホントは光明さんが天皇でしょ」と言い出して、後醍醐天皇が「は?天皇は俺だし」ということで、日本に天皇が二人いるという状態ができてしまったんですね。

近畿地方を舞台にして、京都を拠点にしたのが足利尊氏が担ぎ出した光明天皇でこちらが北朝。まあ北側の朝廷ってことなんでしょう。
そして、吉野という奈良のあたりですね、そのあたりを拠点にしたのが元々天皇だった後醍醐天皇でこちらが南側の朝廷で南朝、という具合。
そして、それが、57年くらい続くという。

そして、この時にいろいろと暗躍しまくって光明天皇を担ぎ出して、実質的に日本の頂点に立つことになるのが足利尊氏で、彼を主人公にしてるのが、BS NHKでやっている「太平記」。
真田広之さんがさわやかに演じてますが、よく考えると悪い人だったんじゃないか?っていう。
ただ、管理人、南北朝に突入してからの足利尊氏を知らないので、その辺の判断はもっと勉強してからですねぇ。
まあ、彼は彼なりの志があってしたことでしょうし。

BS NHKの「太平記」は、吉川英治さんの「私本太平記」をもとにしてるので足利尊氏が主人公になってますが、更にそのおおもとになっているのが、古典文学の「太平記」で、そこでは主人公が誰ってことはないのかな?ないんだろうな、きっと。
その、おおもとの「太平記」は、全40巻の作品だそうで、誰が書いたのか定かになっていないらしいものの、1370年ころまでには全40巻が仕上がっていたらしく、とはいえ、1370年の作品ですから、戦国時代の前になるわけで、もうそれは、戦国時代の人が読む本にしても相当に古い本ということになります。凄いなぁ。

そして、本作「楠木正成」は、足利尊氏と最終的にアレになる楠木正成を主人公にした作品なわけです。
そうなんですよねぇ、アレになるんですよねぇ。
どうしてそうなる。うーん。いや、本書を読んでわかりましたけども。
このあたり、本書を読む前に少し知っていた情報からは、どういう経緯でそうなるのかわからなかった。

でも、本書を読んでわかりました。
あいつです。あいつですよ、ええ、あの馬鹿がいけないんですよ。
全くもう…。

とはいえ、この解釈は本書だけかもしれず、他の方の解釈だとまた違った捉え方になっているのかもしれないので、この時代の作品をもっと読まないといけませんねぇ。

そう思っていたら、北方謙三氏がめっちゃ書いてくれていました。
「武王の門」は本作「楠木正成」には出ないですが後醍醐天皇の息子の一人である征西将軍宮懐良親王(せいせいしょうぐんのみやかねよししんのう)が取り上げられていて、「破軍の星」は本作「楠木正成」にも出てくる北畠顕家(きたばたけあきいえ)が、「悪党の裔(すえ)」では赤松円心(あかまつえんしん)が、「道誉なり」では佐々木道誉(ささきどうよ)が主人公らしいので、こりゃあ、読まないわけにはいかないなぁ。
くぅ、楽しみだぜぇ。追々、読んでいくことにします。

本作「楠木正成」で描かれるのは、楠木正成が…これいくつくらいの時からのスタートなんだろう?
父である楠木正遠(まさとお)がまだ生きているところからスタートします。
既に正成には奥さんもいる状態です。
ただ、間もなく父は亡くなり、正成が家を継いでいくことになります。
なので、表舞台にでるちょっと手前なんじゃないでしょうか。
この時点で、既に父 正遠が、しっかりと河内(今の大阪のあたり)で力を持っていたので、その力を更に凄いものにしていった感じですね。

そして、最後は、有名な湊川(みなとがわ)の戦い…かと思いきや、まあ、それは読んでみてください。

本作を読んでわかったんですが、楠木正成というのは、武士ではないのですね。
ずっと武士なんだと思ってました。
いや、やったことは武士のそれと変わらないっちゃ変わらないんですが、彼は元々は商人ですね、これ。
んで、本当は商売、というか、河内の国の経済を回していきたかったんだろうなぁ。

それが、納得のいかない幕府の政治のために、国の未来を憂うこととなり、結果、挙兵せざるを得ない状況に至った、と。
だからなんでしょうね、普通の人(民)の暮らしが見えていない幕府や朝廷の人達とは違って、普通の人(民)の暮らしぶりに寄り添った考えを持っていたことが、人々の信頼を得て、超強力な幕府に対抗する力となったのでしょう。

軍略、世の情勢に対する読み、人心掌握と全てにおいて完璧だった正成の唯一の誤算はあいつだなぁ。
あいつなんです。ええ。
あいつによって、正成とともに新しい世作りを目指した大塔宮(おおとうのみや)も割を食ってしまうし。

このあたりは、是非、本作を読んで同じ気持ちになっていただきたいです。
報われない。無念すぎます。

で、本作の感想「南北朝って、めっちゃややこしいなこれ」について。

本書の終盤近くになったところで、やっと情勢がわかってきたのですが、これ、ややこしいのが、朝廷(天皇)が争いごとの中心に出てくることと、正成らが武士でなく「悪党」と呼ばれる部類に属するんですが、この、朝廷、幕府(武士)、悪党(非武士)に寺社が絡んでくるから、最初のうちは、ホントに相関関係がわけわからない。

だいたいがですね、戦国時代も幕末も、朝廷って基本的には蚊帳の外で、武士同士の争いになるじゃないですか。
武士同士の裏切りとか、鞍替えとかはその時代にもあるけれども、朝廷が武士と戦うなんてことがない。
この南北朝というのは、それがあるからややこしい。
朝廷がいるほう、錦旗(きんき)があるほうが、官軍、義軍になるわけで、これにに弓を弾くということは、つまり、普通に考えたら賊軍になるわけですよ。
で、南北朝になる直前というのは、幕府がそれをやることで、まさかの朝廷 vs 幕府という構図になるんですが、なんでそんなことになるんだ?と。

朝廷を守るために作られたのが武士なのに、その最高組織である幕府が朝廷に弓弾くってどうしてそんなことになるんだろうなぁ、そして、どう収拾すんの?と思っていたんですが、本書でよくわかりました。
まあ、それが、南北朝という二人朝廷(天皇)の時代を作ることになるのだなぁ。

そして、ここまでの説明で「で、正成ってどういう立場で戦うの?」って話なんですが、「幕府に対抗する」わけなので「んじゃあ、朝敵ってことなくね?」って話なんですが、そうはいかないのが南北朝。
このあたりが、わけわかんなさを高めてくれてました。本書を読むまでは。

本作を読んだことで、おおよその理解はできたつもりですが、この時代はもっと勉強しないとダメでしょうねぇ。すごく深そうです。
でも、それがたまらない。この後もたくさん楽しめそうです。

ああ、あとは、一人の人物に対しての呼び名が局面によって変わるというのも、結構混乱しまして、かなり注意深く読んでいないとわけがわからなくなります。
管理人が一番混乱したのは、大塔宮と護良親王(もりよししんのう)が同一人物であること。
この方、後醍醐天皇の息子で、かなり正成と関わります。
ただ、場面によってとか、人によって呼ばれ方が違うので、後半になって、やっと同一人物であることがわかった、という感じ。
この他にも同じように局面によって呼ばれ方が違うキャラがいます。主に朝廷側の人物だなぁ。
なので、もう一回、最初から読みたいなぁという気持ちがあります。
まあ、それはそのうちに。

因みにですね、先に出ましたが、正成らは「悪党(あくとう)」という部類に属します。
「悪党」というと、時代劇などで悪人のことを「あいつは悪党だ」みたいなことを言いますが、正成らに分類される「悪党」というのはこれとはちょっと違っていて「幕政などの既存体制に反抗する人達」のことを指します。
なので、正成の他にも、本作で主だった悪党を挙げると、赤松円心や金王盛俊(かなおうもりとし)あたりがそれにあたります。
この「悪党」が日本中にいるので、彼らを上手くまとめてどうにかできないか、というのも、この当時の戦略の一つで、正成もこれを巧みに利用しようとするんですが…。

このあたりも、この時代の日本を知ることになり面白かったですねぇ。

ということで、またダラダラと愚にもつかないレビューになりましたが、いやぁ、南北朝、面白いですねぇ。

管理人の中で「源氏・平家」「戦国時代」「幕末」の他に「南北朝時代」が、知見を深めたい時代になりました。
でもどうですかねぇ、日本史的にはこの四つがアツいんじゃないですかねぇ、超個人的嗜好ですが。
「源氏・平家」「南北朝時代」は、今のところ、知見が全然ないので、ここからは新発見ばかりで楽しみです。

歴史好きの友人には「そろそろ近代史いかね?」と言われてますが、近代史は今のところいいかなぁ。

とりあえず、北方謙三氏の他作品も読みつつ、BS NHK の「太平記」を見て、南北朝を攻めてみたいと思います。

「太平記」の尊氏の奥さん登子役の沢口靖子さんが、めっちゃキレイでヤバいんですよねぇ。

歴史には浪漫がある。

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