日本史で習った遣唐使という謎の一団の行いを厳かに描いた真面目かよ作品かと思ったら超有名な高僧を日本に渡航させるための奮闘を描いた渡航エンタメ冒険活劇作品だった「天平の甍」

井上靖

こんにちは。

前回投稿した「龍が哭く」で、著者の秋山香乃先生にTwitterでお礼を言っていただけるというまさかの事態にすっかり舞い上がってしまった管理人です。Twitter凄いなぁ。

秋山香乃先生の他の作品を引き続き読もうと思っていますが、レビューはフェアに自分の心に正直なところは維持し続けなければと改めて思った次第。じゃあ、忖度しないのか、と言われたら、そりゃちょっとはするでしょう。人間だもの。
なんだか相田みつをさんみたいになりましたが、過剰に忖度することのないよう、今後も正直に素人らしいレビューを続けていきたいと思います。

それはそうと、またコロナの感染者数が増え始めましたね。
東京都は日を追うごとに1日の感染者数が記録を更新してまして、GoToキャンペーンの対象から東京都が外されたとか。
まあ性善説のような自粛頼みの状態なので、今後もしばらくは増えはしても減ることはなかなか難しいんじゃないですかね。
早く終息して欲しいものです。

さてそんな中、早くも一冊読了しました。今回は、とてもページ数が少ない作品だったのも早かった要因ですが、思いのほか面白かったという理由もあります。

そんな今回の作品は、井上靖先生の「天平の甍」(てんぴょうのいらか)です。

いくら戦国・幕末以外に興味が出てきたからといって、まさか奈良時代まで到達するとは自分自身思ってもいませんでしたが、どこかのサイトのおすすめ歴史小説・時代小説で、この作品が紹介されてまして、チラッと内容が書かれていたのですが、そこで目に飛び込んできたのが「遣唐使」の3文字。
「遣唐使」ですよ「け・ん・と・う・し」。
もう学生の頃以来、口にすることはおろか、頭に浮かべることもなく、なんならその存在すら忘れかけていた、その「遣唐使」なる謎の使節団について書かれた本だと思うと、にわかに興味が湧いてきて、気がついたらAmazonで購入ボタンをポチッと押してしまってました。

そして、ほどなくその本が届いたんですが、実物を見た感想が「薄っ!」。めちゃくちゃ薄いんです。
そうなんです、200ページくらいの作品なんです。知らなかった…。

表紙はAmazonで購入する際に見たのですが、仏像が描かれたその表紙と、200ページという薄さによって、なんだかお坊さんがお経を読む際に手元に置く経典?的な何かのような、なにか厳(おごそ)かな書物の気配があり「これはやっちまったかな…」みたいな雰囲気だったんですが、中を開いてみたら、パッと見そうでもなかったものの、いかんせん、難解な漢字の単語が多そうで「これは難しいやつか」感があったんですが、そこまでいくと逆に怖いもの見たさでちょっと読んでみたら、4ページくらい読み進むと面白くなるのが単純な管理人脳でして、そこからは普通に楽しめました。ルビも結構振ってあって、ぶっちゃけ、司馬遼太郎先生の作品よりも読みやすかったです。

まあよく考えたら、昭和39年に発行されて未だに増刷を繰り返しているらしい化け物書籍みたいなので、面白くないわけがないですよね。

ということで、だいぶ前フリが長くなってしまったのですが、そろそろ内容について触れていくと、本作は冒頭にお伝えした通り奈良時代のお話です。

管理人が大好きな戦国時代というのがだいたい西暦1500年前後くらいなんですが、この奈良時代というのは西暦700年くらいなので、ということは今が西暦2020年ですから、引き算すれば、それがどれだけ昔の話であるかというのがよくわかりますね。年だけでみたら、今の私たちが戦国時代を「500年前かぁ」と思うところ、その戦国時代の人が「800年前かぁ」って思うことになるので。

そんな昔の記録がよく残っているものだなと思いますが、本作で描かれる内容は、日本に残っていた記録はもちろん、中国に残っていた記録も踏まえていたりするんじゃないですかね、わかんないですが。
でも、日本の昔の様子は中国に残っていた記録からの情報が頼りだと、昔、なにかで聞いたことがあるのであながち間違いではないかもしれない。

そのとんでもない昔に、唐(中国)との国交をおこなうべく、国策として実行されたのが遣唐使の派遣。
聖武天皇が積極的に行ったようで、七世紀から九世紀にかけて19回の渡航が計画され、15回が実行されたんだとか。
そして、本作は、その第9回目が描かれている様子。冒頭に「第九次~」と書かれているので。

西暦732年にその指示が発令されたそうで、それが天平4年なんだそう。そこからタイトルが「天平(てんぴょう)」。
「甍(いらか)」というのは、屋根の部分を言うようで、本作のタイトルは、後述する高僧が建てた唐招提寺の瓦を指しているのでは説が有力なようです。

遣唐使の話に戻ります。
どんな人たちが何のために行くのかという話ですが、そのあたりは本作でも書かれていて、ざっと言うと、当時の中国というのは、だいぶ世界的にみても進んだ国だったらしく、日本はそれに比べたら全然イケてなかった。
なので、中国の偉い人たちに「調子どうですかね?日本をよしなにお願いしますね。」というご機嫌伺いと、中国の進んだイケてるところを学んで日本に持ち帰って還元しよう、というざっくり二つの目的があったと管理人は理解したんですが合ってますかね?

とまあそんな感じ。

学びに行くのもいろんな分野の人たちだったようで、政治的なものだったり、建築だったり、造船技術だったり、もうとにかくいろいろ。
なので、一回の渡航に際して、150人とか、時には400人とか500人とかの大軍団で挑んだのだとか。
しかも、決まって船は4艘だったらしいんですがその4という数字の理由はなんなんだろう?複数にする意味は想像がつくとして、4にこだわったのもきっと何か理由があるはずだな。調べてみよう。

そして、そんな中に、仏教を勉強しようという人達もいて、留学僧というんですが、その留学僧たちが巻き起こす、日本にとっては歴史的な出来事の顛末を描いたのが本作。
もちろん細かいところは井上靖先生が作ったものでしょうけど、基本的には実話ってのが凄い。登場人物も実在した人ばかりみたいです。

で、今までの話だけだと、仏教についての話が結構入ってきそうな気配がするかもしれませんが、仏教の難しそうな話というのは全然なくて(もしかしたら、管理人が気にしてなったのかもしれない)、この投稿のタイトルに書かせてもらった通り、あの時代の渡航のヤバさと、中国に渡った留学僧達のいろいろなその後と、本作のメインになるだろう日本史にとって超重要なあの高僧がいかにして日本に来てくれたかが描かれるので、ほら、なんだか面白そうな気がしてきませんか?実際、面白かったわけです。

主人公は、普照(ふしょう)、栄叡(ようえい)、戒融(かいゆう)、玄朗(げんろう)の4人なんだけど、まあ、普照なんだろうなぁ。こう微妙な言い回しになるのは、読んでいただくとわかると思います。
この4人も、実在した方らしいんですが、有名じゃないのは残念。
普照なんかは、超がんばったと思うんですけどねぇ。

ちょっと話が逸れますが、4人の名前、栄叡(ようえい)を除けば、結構普通に読めますよね?
これが本作が読みやすい理由の一つにあると思います。
登場人物の名前が、比較的読みやすい。
日本の武将とか、めっちゃ当て字っぽいものが多くて、読めなくないですか?
本作で登場する人物は、僧が多いんですが、その人達もそうだし、そうじゃない人達も、結構、普通に読める人ばかり。これが管理人には非常に助かった。
ぶっちゃけ、司馬遼太郎先生の作品なんかは、ルビが最初しか振られてないとか多々あるので、記憶するまでは「これ読み方どうだっけ?」となって、何回も前のほうと行ったり来たりするんですが、本作ではそれをすることがあまりない。これ、結構、違うと思うんだよなぁ。
世の出版社さん、最初だけでなく、ルビをなるべく振ってもらえるとありがたいです。でないと、本の中身が入ってきづらいス。

話を戻します。

その4人の渡航から物語はスタートするんですが、まずですよ、今から1300年も前の時代の船ってどう思います?管理人なら怖くて、できることなら乗りたくないです。
で、当時の人達もきっとそう思っている人が多数だったんじゃないかと思います。
なぜなら、かなりの確率で死ぬから。ガチの命がけ。怖っ!
なので、きっと、遣唐使に選ばれた人もかなりの数が「まじか…」になっていたと推測します。
実際、本作でもそのあたりの苦労は存分に描かれます。

そして、唐についたらついたで、ここからも大変。
まず、数か月や数年で日本になんか帰れない。
何かを会得するとか、日本に何かを持ち帰らないといけないものだから、そういうのがないと帰りづらいし、帰る船もそんなにないし、帰りもまた死の恐怖あるし。

そんなものだから、もう帰るのをやめて唐でその生涯を終える者や、何十年も唐にいてしまう者とかいて、ほんと、気持ちわかります。

せっかく留学僧に選ばれ、唐に渡れたものの、少し仏教の勉強をしたら「あー、自分には才能ないや、これ勉強してもダメだから、とりあえず写経だけやって、それを持ち帰って勘弁してもらおう」と割り切って、30年写経し続ける者とかいて笑います。しかも、30年書いてたら日本に帰る気なくしてるとか。
その彼が最終的にどうなるかは読んでからのお楽しみとしてください。

写経というのは、あれですね、経典を書写するやつですね。
管理人、京都の修学旅行でどこぞのお寺でやった記憶があります。あれを、30年やり続ける、と。
なので、書写したものが膨大な数になるわけで、それを、どうやって日本に持っていくよ?も問題になったりします。
量の問題と共に問題となるのが「ちゃんと日本に届けられるか?」問題。その大事な書物が、船に乗せたはいいが、ちゃんと日本に届くかもわからないわけです。
コピー機無いので、コピーはその手で書いた一枚だけですからね。
それが海の藻屑と消えるとか、そんなことになったら30年の苦労が一瞬にして水の泡になるわけで、そんなの目の当たりにしたら、いたたまれない。
そのあたりの留学僧たちのすったもんだは、大変なんでしょうけど、わりと笑えます。

そんな個性的な留学僧たちの様子と共にやってくるのが、本作のメインイベントである「日本史上でも超有名なあの高僧を日本に連れていくぞ大作戦」。

これ、ほんと、よくあのお方、日本に来る選択をしたよなぁと思います。頭が下がります。
唐でそれなりの地位というか、偉いお坊さんであって、お弟子さんもたくさんいたわけなので(実際、その高僧の来日は20人超のお弟子さんも伴ったとか)、唐にいれば安泰なのに、死ぬかもしれない(というよりも、むしろその可能性のほうが高い)日本行きをしようというのは、なんというか、仏門に入ってそれなりの域に達するとそういう心持ちになるのですかね。いや、逆か、そうであるからこそ、高僧となるわけか。とにかく普通の人じゃとれない選択。

しかも、その日本への渡航が、めっちゃ大変。相当回数失敗します。
その失敗の程度も凄くて、出航したけど波が荒いから戻りましたのレベルでなく、もはや難破。
とんでもないところに漂着してて、揚州という九州・沖縄に近しいところから日本への渡航を狙うんですが「これ、普通にいったら日本を縦断して北海道に届く距離じゃね?」っていうくらいの距離を南に下って漂着したりするので、そこはもはや南国。
そんなことにまでなったら、さすがにお願いしたほうも「もう止めましょう。これ以上無理はさせられない。」と思うわけですが、その高僧「いや、またトライすればよろし」と言って、トライするわけです。
歴史が語る通り、最終的にはその高僧は日本に渡ることができ、その後、日本に大変な業績を残してくれます。ありがたいですねぇ。

余談ですが、その高僧、実は中国ではその後崇め奉られる存在ではなかったらしいのですが、本作と、安藤更生さんという研究者の方の影響で、中国でも評価が改められ、ゆかりの地である揚州に記念館が建てられるに至ったらしいです。逆輸入僧という感じですかね。よいことだと思います。

その高僧の日本での活躍は本作では描かれず、本作は日本に到着するところまでになります。
なので、まあ、200ページで、主人公もこの高僧ではない感じ。
その先を描いた作品ってあるのかなぁ?読んでみたい。探してみよう。

あー、そうそう、本作で登場したことでその方がこの時代の人なのかと知ることができたのが、世界三大美女の一人と言われる楊貴妃。彼女、本作にちょっと登場します。
日本でいうところの奈良時代に生きた人なのですね、本作を読んで知りました。こういうのも勉強になります。

ということで、今回もまただらだらと愚にもつかないレビューとなりましたが、遣唐使として唐(中国)に渡って、日本に多大な影響を及ぼす高僧を連れてくることになった留学僧の活躍(?)と、その高僧の波乱万丈の渡航エンタメ作品の本作、是非読んでみてください。
著者、タイトル、表紙の見た目で固めな印象がありますが、中身は、結構なエンタメテイストになってて面白い作品です。

映像化されてないのかなぁと思ったら、1980年に映画化されてるんですね。
しかも、Yahoo!映画の評価がわりと高い。見てみたいな。
また映画化してくれないかな。尺的にもいいと思うんですよね。
今の役者さんで作っても重厚で趣きのある作品になっていいんじゃないかなぁと思います。

歴史には浪漫がある。

ノンフィクション度
3.5
奇想天外度
0.5
サムライ度
0
忍者度
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エロ度
0
管理人満足度
3.5
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