戦国武将達の野望が渦巻くなか、越後の土と水と民を愛し続けた傑物の全盛期を描いた「小説 直江兼続〜北の王国〜」

童門冬二

管理人が最も好きな武将 直江兼続の23歳頃(1582年(天正十年)なので、武田勝頼が、織田信長・徳川家康の連合軍に敗れて天目山で自刃する年)から、景勝とともに福島・米沢に移封された後の43歳頃までの約20年間を描いた作品。1582年といえば、あの本能寺の変も発生するので、そちらのほうがピンときますかね。

一冊にまとめられているものの650ページあり、先に読んだ「直江兼続と妻お船」(近衛龍春)よりもだいぶ分厚いので、さぞ新しい情報が得られるものと思って読んでみましたが…。

結論から先に言うと、「微妙」でした。正直、管理人は「直江兼続と妻お船」のほうが楽しめました。

理由は、まず、この作品では直江兼続の少年期である樋口与六時代が一切描かれていないこと。

これダメだと思うんですよねぇ。
子供の頃からのお船さんとの繋がりを知ってこそ、お船さんとの結婚とその後の関係が活きると思うし、なんてったって「御館の乱(おたてのらん)」が描かれない。
あの「御館の乱」が描かれないんですよ?
「御館の乱」は兼続にとっても上杉家にとっても、かなりのイベントだと思うし、ドラマがあると思うんですよねぇ。それが描かれない。ダメだと思うんですよねぇ。

次に、少しネタバレになりますが「 兼続って室(奥さん)はお船さんだけじゃないの!?」という事態が発生すること、です。

読み終えた後に、ひとしきり調べたんですが、やはり兼続って室はお船さんだけですよね?
管理人の情報間違ってないですよね?
そこ変えちゃダメだと思うんですよぉ。
兼続が他の武将と違うってところの魅力の一つだと思うんですよ、そこは本当に。
これは、残念ながら、管理人のこの作品に対する評価をかなり下げました。

最後に、亡き謙信公との自問自答的やりとり。

直江兼続になってからの話なので、当然ながら上杉謙信は亡くなっているわけですが、作中、兼続は悩むと「謙信公、私の判断は正しいでしょうか?」「うむ、間違っておらぬぞ」みたいなやりとりが発動します。これが管理人には微妙でした。
しまいには、米沢と京都で離れた位置にいるお船さんに対しても同じようなやりとりが発動して、う〜ん、このくだりいる?みたいな。
まあ、あくまでも小説なのでね、作り話なのはわかるんですが、全般的にノンフィクション感出してるわりに、まあまあやりすぎな演出があるのが、管理人には違和感がありました。

と、ちょっとディスりが多くなりましたが、良いところもあります。

まず、一番よいのは、全体的に会話や雰囲気を現代風に訳してくれているところ。
だいたいこの手の書籍を読むと、文書なんかで、原文そのままがちょっと載ってたりするんですが、この作品には確か原文そのままは一つもないはず。あの直江状も非常にわかりやすく訳した形で内容を書いてくれています。
会話もあの時代の難しい言い回しはあまりなくて無学の管理人が読んでも困ることがありませんでした。(管理人はだいたいこの手の書籍を読むと、数回言い回しを調べないと内容を理解できなかったりします。f^_^;)

もう一つよいのは、やはりページ数にボリュームがある割に全盛期の20年に絞っているので、他の作品ではあまり深掘りされていないイベントが深掘りされて描かれているところ。
まあ、管理人が読んでいる作品が圧倒的に少ないからではあるんですが。
魚津城の戦いがあんなにも悲壮感漂うものだったのかと知ることができたし、その時の柴田勝家や前田利家の振る舞いは見事で敵ながら好感度が上がりました。
その他にも、海津城主 高坂源五郎と北条氏直との密約の話や、上条正繁と景勝、兼続の確執、佐々正成が家康につれなくされた話など、他の作品でさらっと書かれているイベントがきちんと描かれていて、管理人にはいろいろと勉強になりました。
そうそう、千利休との絡みもありますね。千利休切腹時のお屋敷警護役をさせられた兼続の葛藤とか、読んでいて胸が苦しくなりました。
うーん、こうやって追っていくと、やっぱりよい作品ですね、これ(笑)。

作家さんによって人物像が若干違ったり、イベントの解釈の仕方が違ったり等があるので、同じ人物に対して複数の作品を読んでその違いを楽しむというのも、時代小説、歴史小説の楽しみ方の一つかと思います。今回も、お船や兼続自身も他の作品のそれとは若干違ってる印象でした。
残念ながら直江兼続の魅力を知るのに十分とは言い難いですが、直江兼続が世の中に対して最も表だって躍動した20年間を描いていると思うので、その他の作品と合わせて読んでもらうとよいのかなぁと思います。

但し、室の件だけはいただけない。(しつこい)

 歴史には浪漫がある。

ノンフィクション度
3.5
奇想天外度
0
サムライ度
5
忍者度
1
エロ度
1
管理人満足度
3
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